補陀洛山寺

補陀洛山寺（ふだらくさんじ）

補陀洛山寺は、和歌山県東牟婁郡那智勝浦町に位置する天台宗の寺院で、古くから信仰の対象とされてきました。この寺院の名称「補陀落」は、サンスクリット語で観音浄土を示す「ポータラカ」に由来しています。補陀洛山寺の境内は、日本の歴史的な地域「熊野三山」の一部として国の史跡に指定されており、また、ユネスコによって登録された世界遺産「紀伊山地の[[霊場と参詣道]]」の構成資産の一部でもあります。

沿革

その創建は、仁徳天皇の時代にインドから漂着した裸形上人が始めたと伝えられています。平安時代から江戸時代にかけては、「補陀洛渡海という宗教儀礼」が行われ、多くの人々が観音浄土を求めて小舟で出航しました。しかし、江戸時代の文化5年（1808年）には台風により主要な堂塔がほぼ全て滅失しました。その後長い間仮本堂が使用されましたが、1990年には、現在見られる室町様式の本堂が再建されました。

隣接する浜の宮王子社跡には、熊野三所大神社が建てられています。

補陀洛渡海

補陀洛は『華厳経』によるとインドの南端に所在するとされています。また、チベットのポタラ宮もこの名前にちなんでいます。中世の日本では、補陀洛が南洋上に存在すると考えられ、人々はそれを求めて「補陀洛渡海」という宗教儀礼として船出しました。実際の記録によれば、40件以上の渡海が行われ、そのうち25件がこの補陀洛山寺から出発しています。

渡海船

補陀洛渡海に使われた船には特異な構造があり、屋形には扉がないため、内部に人が入った後、出入り口に板が固定されてしまう仕組みでした。船の四方には四つの鳥居が建てられ、「発心門」「修行門」「菩薩門」「涅槃門」を表しています。また、渡海は旧暦の11月に行われ、船は沖に曳航され、いずれは大波や朽ちて漂流することになります。多くの場合、渡海者は飢えや体力の低下によって命を落とすこともあったようですが、その詳細はほとんど記録に残っていません。

渡海者と金光坊

渡海者についての詳しい情報はほとんど残っていませんが、初期の渡海は信仰に基づく儀礼であったとされています。平安・鎌倉時代には6名、戦国時代には60年の間に9名が渡海したと伝えられています。この頃になると、補陀洛渡海は人々の願いを聞くための方法として宣伝されるようになりました。中でも、金光坊という僧が渡海に出た際、屋形から逃げ出し別の島に上陸し捕らえられた事件が記録されています。これが「金光坊島」と名付けられる元となり、その物語は井上靖の小説『補陀落渡海記』の題材にもなっています。

文化財

補陀洛山寺には多くの重要文化財があります。中でも木造千手観音立像は本尊で、高さ172cmの平安時代の作品です。また、境内は国の史跡「熊野三山」の一部であり、他にも多くの文化財が存在します。

• - 銅花瓶 1口（享禄2年、1571年県指定）
• - 銅仏餉鉢 1口
• - 那智曼荼羅 1幅

祭礼・行事

年中行事としては、1月27日の立春大護摩供星祭祈祷会、5月17日の春祭りや渡海上人供養、そして7月10日の土用護摩供や先祖供養などがあります。

交通機関

寺院へのアクセスは、JR紀勢本線の那智駅から徒歩わずか3分です。

まとめ

このように、補陀洛山寺は信仰と歴史が交わる場所で、補陀洛渡海の伝承やさまざまな文化財が残されています。訪れることで、古の人々の信仰の深さや歴史の重みを感じ生きた証を体感できることでしょう。

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