裴松之

裴松之（はい しょうし）

裴松之（372年 - 451年）は、中国の東晋末から南朝宋初の時代を生きた政治家であり、歴史家です。字（あざな）は世期（せいき）。河東郡聞喜県（現在の山西省運城市聞喜県）を本貫とします。彼は、陳寿が著した歴史書『三国志』に「注」を付した人物として広く知られています。

経歴

幼少の頃から学問に秀でており、8歳にして『論語』や『毛詩』に通じていたと伝えられています。太元16年（391年）に殿中将軍としてキャリアをスタートさせ、東晋の বিভিন্নな官職を歴任しました。義熙元年（405年）頃には、尚書祠部郎を務めています。

当時の社会では、祖先の功績を称えるための碑の建立が盛んに行われていましたが、その内容が事実と乖離しているものが多く見られました。そこで裴松之は、碑の濫立を禁止し、内容を朝廷で検閲するよう上奏しました。義熙12年（416年）には、後に南朝宋を建国する劉裕（武帝）の北伐に従軍し、司州主簿として従いました。劉裕は洛陽を奪回後、裴松之の才能を評価し、国政を担う人材として重用しました。

南朝宋が成立すると、元嘉3年（426年）に文帝の代になり、裴松之はこれまでの功績を認められ、中書侍郎・西郷侯に任じられました。その後、司隷・冀州二州の大中正を歴任。元嘉6年（429年）には、文帝の命を受けて『三国志』に「注」（裴注）を著しました。文帝は裴松之の業績を高く評価し、「これは不朽となるだろう」と称賛したと伝えられています。また、『晋記』を著述しましたが、こちらは散逸してしまっています。

その後も大中正や永嘉郡太守などの地方官を歴任し、最終的には国子博士・太中大夫を兼任しました。

『三国志』注について

陳寿の『三国志』は、魏、蜀漢、呉の三国時代の歴史を、魏の後継である西晋の時代に著したものです。しかし、記述が簡潔すぎる点や、西晋にとって不都合な記述を避けている点がありました。そこで、宋の文帝は裴松之に命じて、『三国志』に「注」をつけさせることにしました。

裴松之の注は、「補闕」（記事を補う）、「備異」（本文と異なる説を引く）、「懲妄」（本文や引用史料の誤りを正す）、「論弁」（史実や史書への論評）という四つの体例に基づいて構成されています。彼は、二百十種にも及ぶ当時の史料文献を丁寧に引用し、史料批判を行った上で注を付しました。この裴注によって、『三国志』の価値は飛躍的に高まったと評価されています。

裴松之の注は、単に史料を補完するだけでなく、史料批判の視点を取り入れている点が画期的でした。彼は、様々な史料を比較検討し、その信憑性を যাচাইした上で注を加えています。また、自説に 반する文献もあえて引用することで、読者に多角的な視点を提供しています。裴松之が追記した史料の出典を明記していることは、後世の研究者にとって非常に有益であり、当時の史料を知る上で貴重な情報源となっています。

例えば、魏の皇帝である曹髦が殺害された事件について、陳寿は司馬氏（西晋の建国者一族）に配慮して記述を曖昧にしています。裴松之は、習鑿歯の『漢晋春秋』を引用し、事件の顛末を詳細に記述することで、陳寿の記述を補っています。

裴注は、『三国志演義』の成立にも大きな影響を与えました。『三国志演義』に採用された蜀漢に関する逸話の多くは、裴注に拠っています。しかし、後世の蜀漢正統論とは異なり、裴松之は陳寿に対する敬意を払いながら注を加えています。

裴松之の『三国志』注は、歴史研究における史料批判の重要性を示すとともに、『三国志』の世界をより深く理解するための ভিত্তিとなっています。

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