曹髦

曹髦：才能と悲劇の生涯

曹髦は、三国時代の魏を支えた名家の出身でありながら、短くも激動の人生を送った皇帝です。文帝曹丕の孫、東海定王曹霖の子として生まれ、兄に曹啓がいました。幼少期からその才能は群を抜けており、『三国志』には並外れた才能の持ち主であったと記されています。孫盛の『魏氏春秋』では、司馬師が人物評として鍾会に曹髦の才能を尋ねた際、鍾会は「才能は陳思王（曹植）に匹敵し、武勇は太祖（曹操）を彷彿とさせる」と評したと伝えられています。また、『晋書』では石苞が曹髦を曹操の生まれ変わりとまで絶賛したという逸話も残っています。

16歳で即位した曹髦は、過去の帝王の優劣について荀顗らと議論するなど、政治への関心が深く、群臣との議論を好みました。興味深いことに、曹髦が最も高く評価したのは、滅亡寸前の夏王朝を復興させた少康であり、彼の臣下たちは漢の高祖劉邦を推していました。この論戦で曹髦は勝利を収めたとされていますが、衰退しつつあった魏の運命を変えることはできませんでした。

曹髦は文人としても知られており、王沈、裴秀、司馬望、鍾会らと親交を深め、東御殿で頻繁に議論や文学活動を展開していました。特に王沈と裴秀は曹髦から「文籍先生」「儒林丈人」と敬愛を込めて呼ばれていました。しかし、曹髦のせっかちな性格は、彼を取り巻く状況をさらに複雑なものにしました。司馬望は宮中の役職に就いていなかったため、曹髦からの召集にすぐに応じる事ができませんでした。そのため、曹髦は司馬望に特別に追鋒車と虎賁の兵卒5人を与え、集会がある度に、司馬望は急いで宮中へと向かったのです。

曹芳の時代から魏の政治は司馬師、そしてその後を継いだ司馬昭によって牛耳られており、皇帝は事実上、傀儡でした。諸葛誕の反乱の際には、司馬昭に擁立される形で皇太后と共に親征し、反乱を鎮圧しました。しかし、この時ですら、群臣は曹髦に面会することすら許されず、実権は完全に司馬氏に握られていました。そんな中、井戸で龍が目撃されたという報告が相次ぎました。曹髦はこれを吉祥の兆候とは考えず、「龍は君主の徳を表すものだ。天にも地にもいないのは、良い兆候とは言えない」と否定し、『潜龍』と題する詩を詠みました。この詩は司馬昭の怒りを買ったと言われています。

甘露5年（260年）5月7日、曹髦は側近の王業、王沈、王経らに「司馬昭の野望は誰の目にも明らかだ。このまま廃位されるわけにはいかない。今日、彼らと戦う」と決意を語りました。王経は司馬氏の強大さを訴え、反乱の無謀さを諌めましたが、曹髦は決意を固め、剣を手に李昭、焦伯ら数百人の召使いを率いて司馬昭への反乱を起こしました。しかし、王業と王沈の密告により、賈充率いる司馬昭の軍勢は既に待ち構えていました。誰も天子である曹髦を斬ることをためらったため、賈充は部下を叱咤激励し、罪に問わないことを約束した上で曹髦を殺害させました（甘露の変）。

公式には、曹髦が皇太后の殺害を企てたとして、衛兵によって殺害されたと発表されましたが、これは司馬昭による謀略でした。司馬昭は実行犯の成済に責任を押しつけ、一族郎党を処刑しました。成済は処刑直前に司馬昭と賈充を罵ったと伝えられています。密告しなかった王経も老母と共に処刑され、賈充は一切罪に問われませんでした。司馬孚と陳泰は曹髦の遺体を泣きながら弔いましたが、司馬昭は陳泰に賈充への処罰を求められました。陳泰は賈充の腰斬りを主張し、司馬昭の譲歩を許しませんでした。曹髦の葬儀は当初庶民扱いされる予定でしたが、司馬孚の尽力により王の格式で執り行われました。

曹髦の著作集『高貴郷公集』は失われており、現存するのは裴松之注などに引かれた僅かな断片のみです。詩も2編しか残っていません。子息の記録はありませんが、唐代の画家曹覇は曹髦の子孫を称し、曹髦自身も絵画の達人として評価されていました。近年では、曹操の男系子孫を名乗る曹祖義氏がY染色体鑑定を受け、曹操の男系子孫である可能性が示唆されています。曹髦の生涯は、才能に恵まれながらも権力闘争の犠牲となった、悲劇的な歴史の一コマとして記憶されています。彼が残した詩や逸話からは、彼の理想と現実との間の葛藤が感じられ、現代においても多くの人の心を揺さぶるものです。

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