冀州

冀州（きしゅう）の歴史と変遷

冀州は、古代中国における行政区分の一つであり、現在の山西省、遼寧省、河北省、北京市、天津市、フフホト市、ウランチャブ市など、広範囲にわたる地域に位置していました。その歴史は古く、先秦時代から現代に至るまで、数々の変遷を経験しています。

先秦時代

上古の中国において、冀州は九州の一つとして数えられていました。その具体的な範囲については、『爾雅』や『呂氏春秋』では「両河の間」、『周礼』では「河内」とされており、現在の山西省を中心とする地域を指していたと考えられています。黄河が山西省の周りをU字型に湾曲していることから、東西を黄河に挟まれた地域を意味していたのでしょう。『呂氏春秋』はまた、冀州を「晋国である」とも記しています。

漢代

紀元前106年、漢の武帝は全国を13州に分割し、各州に刺史を置きました。この際、現在の河北省を中心とする地域が冀州刺史部となり、魏、鉅鹿、常山、清河、趙、広平、真定、中山、信都の9郡国を管轄しました。前[[漢]]滅亡後の混乱期には、軍閥の王郎が邯鄲に拠って冀州を支配しましたが、光武帝の侵攻により敗死しました。後[[漢]]に入ると、高邑県が州治となりました。

魏晋南北朝時代

後[[漢]]末期には、軍閥の袁紹が鄴に拠点を置き、冀州を支配しました。袁紹の死後、曹操は彼の子である袁譚と袁尚を破り、冀州をその支配下に収めました。曹操は「冀州の戸籍を調べたところ、30万人の軍勢を手に入れられそうだ。従って、冀州は大州と言えるだろう」と語ったとされており、当時の冀州が中国北部における重要な地域であったことを示しています。魏晋時代には、信都県が州治となりました（ただし、鄴は魏の五都の一つとされ、実質的に冀州の最重要拠点となりました）。

永嘉の乱以降の動乱期には、冀州は後趙、冉魏、前燕、前秦、後燕など、支配者が目まぐるしく変わりました。北魏時代になると、皇始2年（397年）に定州、太和11年（487年）に瀛州、熙平2年（517年）に滄州へと分割されるなど、細分化が進みました。また、南朝宋の時代には、現在の山東省の領域内に僑州として「冀州」あるいは「南冀州」が設置されることもありました。

隋唐時代

隋代が成立すると、当初は2郡を管轄しました。607年（大業3年）には郡制が施行され、冀州は信都郡と改称され、下部に12県を管轄しました。唐代になると、信都郡は冀州と改称され、河北道の管轄となりました。662年（龍朔2年）には、冀州は魏州と改称（同時に魏州が冀州と改称）されましたが、672年（咸亨3年）に再び冀州と改称されました。742年（天宝元年）には郡制施行に伴い信都郡とされましたが、758年（乾元元年）に再び冀州とされました。

五代十国時代

五代十国時代の各王朝では唐の制度が引き継がれ、冀州は河北道の管轄とされました。五代において冀州は契丹との国境地帯であったため、数多くの戦乱に巻き込まれることとなりました。

宋代

宋代が成立すると、冀州は河北東路の管轄となりました。下部に信都、南宮、棗強、武邑、衡水、阜城、蓨の7県を管轄しました。

遼金代

遼が華北地区に進出すると、冀州は北宋との最前線となり、遼によって北宋に対する防衛基地とされ、永安軍と改められました。1128年（建炎2年）に冀州が金の支配下に入ると、1129年（天会7年）には安武軍節度が置かれました。冀州は河間府に属し、信都、南宮、棗強、武邑、衡水の5県を管轄しました。

元代

1213年（貞祐元年）、冀州はモンゴル帝国により占領されました。冀州は真定路に属し、信都、南宮、棗強、武邑、新河の5県を管轄しました。

明清代

1369年（洪武2年）、明により信都県は廃止され、冀州に編入されました。冀州は真定府に属し、南宮、棗強、武邑、新河の4県を管轄しました。1724年（雍正2年）には、清により冀州は直隷州に昇格しました。冀州直隷州は直隷省に属し、南宮、棗強、武邑、新河、衡水の5県を管轄しました。

中華民国以降

1913年（民国2年）、州制廃止に伴い、冀州直轄地域（旧信都県）に冀県が設置され、冀州の名称が消滅しました。1993年に県級市に昇格した際に、冀州市の名称が採用されましたが、旧冀州に比べその管轄区域は大幅に減少しています。2016年には市轄区の冀州区に改編され、現在に至ります。

このように、冀州は時代とともにその範囲と重要性を変化させてきました。その歴史は、中国の政治、経済、文化の変遷を映し出す鏡と言えるでしょう。

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