裸民(らみん)とは
裸民とは、古代
中国の伝説に登場する、衣服を全く身につけない人々を指します。彼らは
裸国(らこく)とも呼ばれ、古代
中国において
南方に位置する国に住んでいたと伝えられています。
裸民の存在は、
中国の様々な歴史書や地理書に記録されており、その記述からは、当時の人々が異文化や未知の存在に対して抱いていた想像や関心が伺えます。
伝説の中の裸民
裸民に関する記述は、主に以下の
中国の古典に見られます。
『淮南子』
『淮
南子』の「墬形訓」には、
裸民国は羽民国や不死国の近くにあると記されています。これは、
裸民が現実世界ではなく、神話的な世界観の中に位置づけられていたことを示唆しています。羽民国や不死国もまた、伝説上の存在であり、
裸民もまた、その系譜に連なる存在として語られていたと考えられます。
『呂氏春秋』
『呂氏春秋』の「貴因」には、古代
中国の帝である
禹(う)が各地を巡幸した際のエピソードが記されています。
禹が
裸民国に入った際、その習慣を尊重して自らも
裸になったという記述は、異なる文化に対する敬意や、その土地の風習に合わせるという姿勢を示しています。この記述は、
裸民の風習が、当時の
中国の人々にとって異質なものであったことを示唆すると同時に、
禹のような聖人がいかに寛容であったかを語る逸話ともなっています。
『三国志』
『三国志』の「魏志
倭人伝」には、
裸国に関する記述が登場します。
倭人伝は、日本の地理や文化について記した部分が有名ですが、その中で、女王が支配する国から4000余里離れた場所に、
裸国と黒歯国が存在すると記されています。また、これらの国は東
南方向に船で一年かかる場所にあるとされ、非常に遠隔の地として認識されていたことがわかります。この記述は、当時の
中国の人々が、倭(日本)のさらに遠方にまで関心を抱き、未知の世界への探求心を抱いていたことを示唆しています。
裸民のイメージと文化的意味
裸民のイメージは、衣服を身につけないという特徴から、原始的、野蛮、あるいは異質な存在として捉えられていた可能性があります。しかし、一方で、衣服を必要としない、自然と一体化した存在として、理想化された側面もあったかもしれません。
裸民の伝説は、異なる文化に対する理解や、人間とは何か、文明とは何か、といった根源的な問いを投げかけるものとして捉えることができるでしょう。
まとめ
裸民の伝説は、古代
中国の人々が抱いていた未知の世界への想像や関心を反映するものです。彼らは、異文化に対する好奇心や、人間存在に対する深い思索を、
裸民という存在を通して表現しました。
裸民の伝説は、単なる物語としてだけでなく、当時の文化や思想を理解するための重要な手がかりとなります。
参考文献
*
袁珂 著、鈴木博 訳『
中国の神話伝説』 上、
青土社、1993年4月、351頁。
ISBN 978-4-7917-5221-8。