西ヶ嶽

西ヶ嶽（にしがたけ）は、兵庫県丹波篠山市の西部に位置する標高727メートルの山です。多紀連山（別名：多紀アルプス、または三岳）を構成する三つの主要な峰の一つに数えられ、北東に位置する御嶽（793メートル）、東の小金ヶ嶽（725メートル）と共に、この山塊の中心をなしています。古くは山岳信仰の拠点として、修験道の霊場が営まれた歴史を持つ山です。

地形と景観

西ヶ嶽はその山容が豊かに裾野を広げ、雄大な姿を見せています。特に南側には多数の尾根が派生していますが、北面は山頂から急角度で切れ落ちた絶壁となっており、大小さまざまな岩場が散りばめられています。山頂部は広く開けており、近年、視界を遮っていた木々が伐採されたことで、360度全方位にわたる優れた展望が得られるようになりました。すぐ東方には多紀連山の盟主である御嶽が堂々たる姿でそびえ、北には西紀・三和方面の山並みや、草山温泉周辺地域までを一望できます。南側眼下には広大な篠山盆地が広がり、八上城跡のある高城山、弥十郎ヶ嶽、三田方面の山々、さらに遠く白髪岳方面まで見晴らすことが可能です。

自然と植生

山の植生は、一部に杉などが植林された区域もありますが、多くは広葉樹などの雑木林で覆われています。そのため、四季折々に美しい景観を見せます。特に秋には山全体が鮮やかな紅葉に彩られ、多くの人々を惹きつけます。春には、新緑の中にヒカゲツツジやシャクナゲ、タムシバといった様々な花々が咲き誇り、山肌を華やかに彩ります。特に、北面の岩場などに自生するシャクナゲやヒカゲツツジは人気が高く、これらの花の開花時期には、その鑑賞を目当てに遠方からも多くの登山者が訪れるほどです。また、秋口から初冬にかけては、篠山盆地特有の気象条件が生み出す「丹波霧」が高頻度で発生し、山頂からは眼下に広がる雲海の幻想的な光景を望むことができます。

修験道の遺構：愛染窟

かつて修験道の山として栄えた名残として、北壁の登山道沿いに愛染窟（あいぜんくつ）があります。これは天然の岩が作り出した洞穴で、修験道の重要な修行場である「胎蔵界」の行場の一つとされています。洞窟の内部は深く暗く、中には役の行者にも見えると伝わる愛染明王像が祀られており、神秘的でありながらもどこか隠微な雰囲気に満ちています。この愛染窟は、1997年に放送されたNHKの連続テレビ小説『甘辛しゃん』のロケ地としても使われたことで知られています。

登山ルート

西ヶ嶽へは複数の登山ルートが整備されています。なお、近年、周辺の山域でクマの目撃情報があるため、登山にあたっては注意が必要です。

栗柄ルート: 最も一般的に利用される主要ルートです。JR福知山線篠山口駅から神姫バスの草山温泉方面行きに乗車し、「栗柄口」または「栗柄奥」バス停で下車します。「栗柄奥」バス停からのルートは、八柱神社の北側から谷川沿いの道を進み、前述の愛染窟や「西の覗」と呼ばれる場所を経由して、御嶽と西ヶ嶽を結ぶ尾根の分岐点へと至ります。
藤岡ダムルート: 藤岡ダムの畔からスタートし、奥池を経由して山頂を目指すコースです。このルートを利用した場合、山頂までの所要時間の目安は約1時間30分程度とされています。

関連情報

西ヶ嶽を含む多紀連山一帯は、多紀連山県立自然公園に指定されており、豊かな自然環境が保全されています。周辺には、西ヶ嶽と共に多紀連山を形成する御嶽、小金ヶ嶽をはじめ、盃ヶ嶽や三尾山といった山々があり、多様なハイキングコースが楽しめます。登山計画の際には、丹波篠山市が提供する「多紀連山ガイドマップ」などの情報を参考にすると良いでしょう。

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