西原儀一

西原儀一：ピンク映画界の異端児

西原儀一（にしはら ぎいち、1929年2月28日 - 2009年8月16日）は、日本の映画監督、脚本家、プロデューサー、そして俳優として、その名を刻みました。彼は、関谷四郎、千葉隆志といった別名義も持ち、多才な人物でした。

低俗とカルトの狭間で

1960年代から1970年代にかけて、葵映画で制作された低予算で扇情的なピンク映画は、西原の代名詞となりました。その作風から「日本で最も低俗な映画作家」と酷評されることもありましたが、一方で「ヤクザ映画ファンの間でカルト的人気」を博し、熱狂的な支持を集めました。

ボクサーから映画界へ

大阪で生まれ、愛媛県新居浜市で育った西原は、1945年に野口拳闘クラブに入門し、プロボクサーとしてのキャリアをスタートさせます。1946年には日本フェザー級西日本チャンピオンに輝くなど、その才能を発揮しました。1947年、佐伯幸三監督の大映映画『鉄拳の街』でボクサー役を演じたことがきっかけで、映画界への足を踏み入れます。1949年に大映東京撮影所の助監督試験に合格し、佐伯の助監督として映画制作の基礎を学びました。その後、宝塚映画では、フリーで仕事をこなす「ノンポジションスタッフ」として活躍しました。

監督としてのデビューとピンク映画への道

舞台演出を経て、1956年に榎プロの『深夜の決闘』で監督デビューを果たしました。その後、松竹、毎日テレビ、NHK大阪放送局など、様々なスタジオで演出を手がけました。1962年、日本初のピンク映画とされる『肉体の市場』(香取環主演)が大ヒットし、1960年代中期のピンクブームを牽引しました。1965年には、自身も設立に関わった葵映画で、香取環とコンビを組み、『激情のハイウェー』でピンク映画監督としての第一歩を踏み出しました。葵映画は、当時、大阪の「やくざ」のフロント企業であったという説もあります。

1970年代：泉ユリとの出会い

1960年代後半に香取環が葵映画を去った後、西原の作品はしばらく低迷しますが、1970年代初頭に女優の泉ユリが参加してから、再びヒット作を生み出し始めます。その後、西原と泉は結婚し、公私ともにパートナーとして活動しました。1970年代後半には、ピンク映画製作会社として大手の新東宝興業で映画を制作し、『もう一度襲る！』や『現代猟奇性犯罪』などの作品を発表しました。

引退と回顧展

1985年に映画業界を引退した後、2002年には自伝『やくざ監督　東京進出』を出版しました。この回想録では、自身の波乱に満ちた生涯と、犯罪者との出会いについて語っています。2009年9月には、西原と香取環の1960年代の仕事をテーマにした回顧展が神戸プラネット映画資料館で開かれましたが、その直前の2009年8月16日に、肺気腫からの肺炎により死去しました。

作品の特徴と評価

西原の作品は、その低俗さから批判されることも多かったですが、その一方で、その独特な作風は、多くの観客を魅了しました。Allmovieは、「誰も西原を、世界で最も巧みな映画監督とは言わないだろう。しかし、少なくとも彼は低俗な作品づくりを活き活きと続けた」と評しています。彼の作品の特徴として、ねじれたプロットと、恐怖を煽る淡々とした演出が挙げられます。また、暴力的なシーンや性的な描写が多く含まれていることも特徴です。

代表作の分析

『狙う』（1967年）：犯罪ドラマ。香取が強盗団の唯一の生き残りとして戦う姿を描いています。
『泣き濡れた情事』（1967年）：中年男性とその娘との関係を描いたメロドラマです。
『乱れた関係』（1967年）：香取がホストクラブで働く恋人を経済的に支援する女性を演じ、恋人の浮気を知って復讐を企てる物語です。
『肉体の誘惑』（1967年）：香取が映画の中で二度レイプされるという衝撃的な内容です。
『桃色電話』（1967年）：コメディ作品で、日本一の酒飲みになることを夢見る男の物語です。
『異常な反応 悶絶』（1967年）：エロスリラーで、香取が主婦の夫の死を偽装しようとする役を演じます。
『引裂かれた処女』（1968年）：レイプした男が恋人だったと知る女子高生を描いた作品で、監督の作品としては「驚くほど洗練されている」と評されています。
『性の階段』（1968年）：白人女優を起用し、異国情緒を演出した作品です。
『現代猟奇性犯罪』（1976年）：西原の最高傑作の一つとされる作品ですが、「鼠咬症、皮膚疾患、ダニチフスから選ぶようなものだ。総じてとても悪い」という酷評もあります。しかし、人物描写に焦点を当てた、サスペンス性の高い作品とも評されています。
『異常情痴事件:剃刀』（1977年）：父親と愛し合う女性が、関係を続けるために弁護士に助けを求めますが、その弁護士にレイプされ、最終的には殺害してしまうという衝撃的な内容です。

西原儀一は、その作品を通じて、人間の欲望や狂気を描き出し、観客に強烈な印象を与え続けました。彼の作品は、今もなお、多くの映画ファンを魅了し続けています。

参考資料

Allmovie
The Complete Index to World Film
IMDb
日本映画データベース
西原儀一『やくざ監督　東京進出』ワイズ出版、2002年
鈴木義昭『昭和桃色映画館』社会評論社、2011年
Sharp, Jasper (2008). Behind the Pink Curtain: The Complete History of Japanese Sex Cinema. Guildford: FAB Press.
Weisser, Thomas; Yuko Mihara Weisser (1998). Japanese Cinema Encyclopedia: The Sex Films. Miami: Vital Books : Asian Cult Cinema Publications.
* 神戸プラネット映画資料館

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