西巌殿寺

西巌殿寺

西巌殿寺（さいがんでんじ）は、熊本県阿蘇市黒川に位置する天台宗の寺院です。阿蘇山を山号とし、古くから阿蘇山修験道の重要な拠点として機能してきました。九州の天台宗寺院の中でも高い寺格を誇ります。

歴史

西巌殿寺の開基には二つの説があります。一つは726年（神亀3年）に、天竺の僧・最栄が聖武天皇の勅願を受け、阿蘇山上で阿蘇明神を感得したとする説。もう一つは、1144年（天養元年）に比叡山の慈恵大師良源の弟子・最栄が阿蘇神社大宮司の許可を得て阿蘇山に登ったとする説です。

どちらの説でも共通するのは、最栄が阿蘇山の火口西の巌殿に十一面観音菩薩を安置し、法華経を読誦したため「最栄読師」と呼ばれたという点です。最栄が庵を開いて以来、多くの修行僧や修験者が阿蘇山に集まり、現在の旧阿蘇山スキー場一帯に坊舎を建てて修行に励みました。その数は三十六坊五十二庵に及んだと伝えられています。西巌殿寺とは、これらの坊や庵を含めた総称です。

しかし、これらの堂宇は天正年間の戦乱で焼き払われ、豊臣秀吉の九州統一時には宗徒や行者も寺を去りました。その後、肥後に入部した加藤清正が寺の再興に尽力しました。各地に散っていた僧侶を呼び戻し、山上の本堂を修復するとともに、麓の黒川村に三十六坊を再建しました。この黒川の坊は「麓坊中」と呼ばれ、地名も「坊中」と改められました。それに対応して、阿蘇山上の坊舎跡は「古坊中」と呼ばれるようになりました。さらに、寺領も与えられ、熊本藩の庇護は細川家時代にも続きました。この再興には、長善坊契雅という法師の貢献が大きかったと言われています。江戸時代には、「阿蘇講」と呼ばれる観光・修験道体験が盛んに行われ、「牛王法印」の札販売も賑わいました。

明治政府の神仏分離令により、西巌殿寺は一時廃寺となりましたが、1871年（明治4年）に山上本堂を麓坊中の一つ、学頭坊に移し、1874年（明治7年）には学頭坊を西巌殿寺（麓本堂）とすることで法灯が受け継がれました。1890年（明治23年）には、古跡保存のため山上本堂（奥の院）が再建されました。

2001年（平成13年）には、不審火により麓本堂が焼失しましたが、僧坊などに保存された貴重な文化財とともに信仰は今も継承されています。

札所

西巌殿寺は以下の霊場の札所となっています。

九州西国霊場第13番札所
九州四十九院薬師霊場第30番札所
肥後三十三ヵ所観音霊場第1番札所
阿蘇西国三十三ヵ所霊場第1番札所

行事

阿蘇山観音祭り

毎年4月13日には、「阿蘇山観音祭り」が開催されます。この祭りでは、修験者による火渡りや湯立の荒行が執り行われます。開催日は、明治時代の住職である厨亮俊の命日に因んでいます。

厨亮俊は、比叡山で修行後、西巌殿寺の復興に尽力しましたが、西南戦争時に薩軍に囚われ拷問を受け、命を落としました。その勇気ある行動を称え、西巌殿寺境内に墓所が設けられ、毎年「招魂祭」が行われるようになりました。

昭和50年代には、招魂祭に合わせて火渡りや湯立などの荒行を行う祭りが始まり、「阿蘇山観音祭り」と名称が改められました。

年間行事

2月3日：節分会星祭
4月13日：阿蘇山観音祭り
8月16日：地蔵盆
秋彼岸：永代供養会、水子供養会

文化財

西巌殿寺には、以下の貴重な文化財が所蔵されています。

重要文化財（国指定）

紺紙金泥般若心経 1巻 後奈良院宸翰 附:従三位惟豊添状
仏舎利渡状 懐良親王筆、天授元年（1375年）

熊本県指定重要文化財

絹本著色阿弥陀三尊来迎図
山上本堂の仏像　十一面観音立像（平安時代作）
前立十一面観音立像、不動明王立像、毘沙門天立像（鎌倉時代作）
僧房の仏像　阿弥陀坐像、誕生仏、大黒天（鎌倉時代作）

2001年の火災で、本堂と仏像7体（元・熊本県指定重要文化財）が焼失しました。

アクセス

阿蘇登山道路坊中線を阿蘇五岳方面へ南下すると、道路沿い右手に位置しています。

JR豊肥本線 阿蘇駅から徒歩5～10分
九州産交バス、大分バス 阿蘇駅前バス停留所から徒歩5～10分

脚注

[1] 高濱政五郎『霊場肥後33ヶ所』熊本新評社、1994年、21-23頁。
[2] 松本寿三郎、吉村豊雄『街道の日本史51 火の国と不知火海』吉川弘文館、2005年、94-95頁。ISBN 4-642-06251-3。

外部リンク

阿蘇山西巌殿寺ホームページ
天台宗九州西教区 西巌殿寺

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