西武新宿戦線異状なし DRAGON RETRIEVER

『西武新宿戦線異状なし DRAGON RETRIEVER』概要

漫画作品『西武新宿戦線異状なし DRAGON RETRIEVER』は、アニメーション監督として知られる押井守が原作を手がけ、おおのやすゆき（現・大野安之）が作画を担当した作品です。タイトルの「西武新宿戦線異状なし」は、レマルクの小説『西部戦線異状なし』と日本の鉄道路線である西武新宿線を掛け合わせたものと考えられています。

連載と単行本

本作品は1992年から1993年にかけて連載されました。当初は大陸書房発行の雑誌『ネオファンタジー』に掲載されましたが、後に日本出版社発行の『コンバットコミック』へと掲載誌を移して連載が継続されました。単行本は1994年に日本出版社より全1巻として刊行されています。

2002年には、角川書店より『西武新宿戦線異状なし 完全版』（全1巻）として再版されました。この完全版には、単行本未収録だった『月刊少年エース』2002年5月号に掲載された『番外編』も併せて収録されています。

制作の経緯

実は本作には前史があり、1987年には近藤和久を作画に迎えて、バンダイ発行の『B-CLUB』誌上で連載が開始されていましたが、こちらは序盤で中断に至っています。大野作画による再スタートは、大陸書房の雑誌『ネオファンタジー』のリニューアル創刊号に合わせて始まりましたが、皮肉なことにその直後に同誌は休刊となります。本来であれば、掲載予定だった作品を集めたアンソロジー誌に掲載されるはずでしたが、出版元の大陸書房が倒産したため、急遽、日本出版社の『コンバットコミック』へと掲載誌を移すことになりました。こうした出版社の事情に翻弄された連載であったことが、『完全版』に収録された大野のあとがきなどで語られています。

作品の根幹には、後に押井守監督の代表作の一つとなる映画『機動警察パトレイバー 2 the Movie』でも描かれることになる、「自衛隊によるクーデター」というテーマが存在します。ただし、本作の原案が構想されたのは冷戦時代であったため、物語の中ではさらに一歩進んで、共産主義革命（あるいはそれに近い状況）へと発展している点が特徴です。押井自身も、冷戦終結による構成上の困難に触れています。

あらすじ

物語は、静岡県の高校に通う、戦車などの模型作りを趣味とするごく普通の高校生、丸輪零の日常から始まります。しかし、突如として東京で内戦が勃発。自衛隊が首都圏各地で武装蜂起を起こし、東京都心部をその支配下に置きます。戦闘は約一週間で膠着状態となり、弾薬が尽きた政府軍は大阪へ事実上亡命。東京では反乱を起こした自衛隊が「臨時革命政府」の樹立を宣言します。首都は国道16号線を境に分断され、環状線の内側は「解放区」として革命政府の実効支配下に置かれることになります。

内戦勃発にもかかわらず、再び変わらない日常が戻り、零は長期休校の期待が外れたことに落胆し始めます。そんな折、解放区から派遣されたオルグ（組織活動家）が零を革命政府側の武装組織「革命防衛隊」へと勧誘。零は自分でも驚くほどあっさりと、その日のうちに軍事境界線である国道16号線を越えてしまいます。

喜び勇んで「独立第3戦闘工作連隊第58戦車回収小隊」への配属を命じられた零でしたが、彼を待ち受けていたのは、どこか胡散臭い3人組と形式も不明な古びた戦車回収車でした。驚くべきことに、その闇物資の売買に明け暮れる3人組こそが、小隊どころか連隊全体の全兵力だったのです。

やがて零たちは闇商売の現場を押さえられ、逮捕されてしまいます。そこで、軍事評議会の女性幹部・ケイと名乗る人物から、ある「物」の回収という特殊任務を課されます。任務の詳細は知らされないまま、零たちは監視役のケイと共に解放区の外へ向かいますが、その道中で日本政府軍やアメリカ海兵隊といった思わぬ勢力と遭遇することになります。

関連作品・事項

M32 戦車回収車
機動警察パトレイバー 2 the Movie（自衛隊クーデターをテーマとする押井守作品）
* 東京無国籍少女（分断された日本の内戦と義勇兵というモチーフが登場する押井守作品）

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