西谷敏

日本の法学者、西谷敏（にしたに さとし）は、1943年（昭和18年）8月24日、兵庫県神戸市に生まれました。労働法、特にドイツ労働法および労働組合法の分野で、日本の学界を長年にわたり牽引してきた研究者の一人です。

西谷氏は、神戸市立長田小学校、同西代中学校を経て、兵庫県立神戸高等学校を卒業しました。その後、京都大学法学部で学び、1966年に卒業。さらに同大学院法学研究科に進み、1971年に博士課程を単位取得退学しました。この間、労働法研究の大家である片岡曻教授のもとで研鑽を積みました。

大学院修了後、1971年に大阪市立大学法学部に助教授として奉職。研究者・教育者としてのキャリアをスタートさせました。1983年には同法学部および大学院法学研究科の教授に昇任。大阪市立大学での教育・研究活動を通じて、日本の労働法学の発展に貢献しました。特に、集団的労働法における個人、団体、国家の関係性をドイツ労働法思想史の視点から深く考察した研究は、1988年に「ドイツ労働法思想史論 集団的労働法における個人・団体・国家」として結実し、大阪市立大学から法学博士の学位を授与されました。

西谷氏の研究は国内にとどまらず、国際的にも高く評価されています。1991年にはドイツのフライブルク大学で客員教授を務め、国際的な学術交流を深めました。その学術的功績が認められ、2004年には同大学から名誉法学博士号が授与されています。これは、日本の法学者が海外の著名大学から名誉学位を贈られる稀有な例であり、その研究が国際的にも極めて重要視されていることを示しています。

大学運営にも貢献し、1992年には大阪市立大学法学部長を務めました。また、学会活動にも積極的で、1997年には日本労働法学会の代表理事に就任し、同学会の発展に尽力しました。同時期には日本学術会議の会員も務めています。さらに、2001年からは奈良県労働委員会の公益委員として、労使紛争の解決など社会的な活動にも関わりました。

2007年に大阪市立大学を定年退官し、同大学から名誉教授の称号を受けました。退官後も研究・教育への情熱は衰えず、近畿大学法科大学院で教授として教鞭を執りました。2010年に同大学を定年退職しましたが、2019年からは近畿大学法科大学院の客員教授として、後進の指導にあたっています。

専門は労働法全般ですが、特にドイツ労働法思想史や労働組合法の研究で知られています。集団的労働法の構造分析や、日本とドイツの労働法比較など、多角的な視点から労働法の本質を探求しました。その研究成果は多くの著書として発表されており、日本の労働法学界における必読文献となっています。

主要な著作には以下のようなものがあります。

『労働法における個人と集団』（有斐閣、1992年）
『ゆとり社会の条件─日本とドイツの労働者権』（旬報社、1992年）
『労働組合法』（有斐閣、初版1998年、第2版2006年）
Vergleichende Einführung in das japanische Arbeitesrecht (Carl Heymanns Verlag, 2003)
『規制が支える自己決定―労働法的規制システムの再構築』（法律文化社、2004年）
『労働法』（日本評論社、2008年）
* 『労働法の基礎構造』（2016年）

西谷敏氏は、長年にわたる精力的な研究活動と教育を通じて、日本の労働法学の発展に多大な貢献をしてきました。その深い学識と国際的な視野は、現在も多くの研究者や実務家に影響を与えています。

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