西陵峡

西陵峡は、中国湖北省を流れる長江本流に位置する峡谷であり、瞿塘峡、巫峡と並び、長江三峡を構成する重要な要素の一つです。三峡の中で最も下流に位置し、その長さは66kmと三峡最長を誇ります。

西陵峡という名前は、この地を流れる西陵山に由来しています。峡谷は、西は湖北省秭帰県の香溪口から、東は宜昌市の南津関までの範囲を指し、その急峻な地形から人家はほとんど見られません。かつては航行が非常に困難な場所として知られ、急流と両岸にそびえ立つ奇岩が、航行する人々を苦しめました。瞿塘峡が「雄」、巫峡が「秀」と称されるのに対し、西陵峡は「奇」と表現され、その独特な景観が特徴です。

西陵峡の中でも特に有名な場所としては、破水峡、兵書宝剣峡、米倉峡、鎮山峡、白狗峡、牛肝馬肺峡、黄牛峡、燈影峡などが挙げられます。中でも、北岸に位置する兵書宝剣峡、牛肝馬肺峡や、南岸にある燈影峡は、その景観の美しさで特に知られています。

長江は、巴東県で巫峡を抜けると、東西に伸びる巫山山脈などの褶曲山脈から離れ、今度は湖北省西端で南北に走る山脈を迂回しながら、東西へと流れていきます。巴東県の官渡口からは、香溪寛谷、西陵峡上段峡谷、廟南寛谷、西陵峡下段峡谷と、4つの部分に分けられます。西の上段峡谷には、兵書宝剣峡、牛肝馬肺峡谷、崆嶺峡などが、下段峡谷には黄牛峡、燈影峡などがあります。

南津関を過ぎると、長江は宜昌市街へと入り、川幅は広がり、流れも穏やかになります。その後、湖北省の沖積平野へと流れ込んでいきます。

かつて西陵峡は、航行の難所として知られ、急流の下に隠れた暗礁に船が衝突し、多くの船が沈没しました。そのため、沿岸には白骨塔と呼ばれる慰霊のための塔が建てられました。しかし、1988年に宜昌市街の上流に葛洲壩ダムが完成したことで、西陵峡の下流部分の流れは大幅に緩やかになり、航行が容易になりました。

さらに、西陵峡の中腹にある丘陵地帯、三斗坪には、長江最大のダムである三峡ダムが建設されました。三斗坪という名前は、一戸の家が三斗の米を元手に旅人に食事と宿を提供していたという言い伝えに由来します。この場所に、幅2,309mの巨大なダムと発電所が完成し、周囲の景観は大きく変化しました。ダムを迂回するために、船は閘門を通行するようになっています。

西陵峡一帯は、2011年に「三峡人家風景区」として、2022年には峡谷の中にある白果樹瀑布一帯が「三峡大瀑布風景区」として、中国の5A級観光地に認定され、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。

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