見知らぬ海へ

歴史小説『見知らぬ海へ』の概要

『見知らぬ海へ』は、作家隆慶一郎によって執筆された歴史小説で、1987年7月に『小説現代』で連載が始まりましたが、残念ながら隆の急死により未完の作品となりました。作品は、武田家の水軍とそれに関わる人物たちの物語を中心に展開しています。隆の死後、多くの読者に求められながらも長らく未完のままとなりましたが、後にいくつかの版本が刊行されています。

出版情報

本作品は、執筆後の隆の死を受けて、以下の版本が出版されました：

• - 隆慶一郎全集 第6巻 (1996年、新潮社) ISBN 4-10-645906-X
• - 隆慶一郎全集〈12〉見知らぬ海へ (2010年、新潮社) ISBN 978-4-10-647012-7
• - 文庫版 (1994年、講談社文庫) ISBN 4-06-185774-6
• - 文庫版 (2015年、講談社文庫 レジェンド歴史時代小説) ISBN 978-4-06-293225-7

あらすじ

物語は、1579年の天正七年、駿河国を舞台に展開されます。主人公は、持船城の城主である向井正重の息子・向井正綱です。正綱は、厳しい戦いの中で家族を守りながら成長していく海の武士です。物語のスタートは、正綱が父の城を抜け出し、釣りに興じるところから始まります。その最中に、城が徳川家の総攻撃を受けて炎上する様子を目の当たりにします。父と義兄を失った正綱は、「海坊主」と呼ばれる野尻久兵衛に命を救われ、悲しみの中で再起を図ることになりません。

再び海を目指す正綱は、北条水軍への奇襲攻撃を決意します。黒く塗られた船で出撃し、漁師たちと共に壮絶な戦闘を繰り広げる彼の姿は、次第に徳川水軍の一翼を担うようになります。物語の中で正綱は、失われた家族の誇りを胸に、また夜の視力が優れた息子・忠勝との絆も描かれていきます。

登場人物

• - 向井正綱：本作の主人公で、武芸に秀でた大柄な武士。父の教えを受けながら成長し、最後には多くの人々を引き連れる将になる。
• - 向井正重：正綱の父で、武田家の水軍を指揮する厳しい人物。持船城落城時に命を引き取る。
• - 向井正勝：正綱の義兄。温厚な性格ながら戦では容赦ない猛将。
• - 久：正勝の妹で、正綱の愛妻。
• - 向井忠勝：正綱と久の息子。早熟な天才として描かれ、父の意志を継いで成長する。
• - 野尻久兵衛：「海坊主」として知られる巨漢で、正綱を支える存在。
• - 本多重次：後に正綱の師となる人物。

物語の背景

物語は、武田家と徳川家の緊張関係を背景に進行します。正綱は数々の困難に立ち向かいながら、家族のために戦い、また家族を支えるという物語を通じ、忠義や誇りの重要さが強調されます。時代背景を反映した戦闘描写や人物描写は、読者に深い感銘を与えるでしょう。

未完の結末と今後の展望

原作は未完に終わっていますが、隆が生前に残した構想メモには、正綱が海を渡り様々な冒険をする計画が記されており、彼の物語はどこまでも続く可能性を秘めています。これにより、読者は作者の想像力が生み出す新たな展望を感じることができるのです。

Conclusion

『見知らぬ海へ』は、隆慶一郎の魅力的な筆による歴史小説で、未完の作品ながらも多くの読者に愛され続けています。正綱の成長物語は、戦いの厳しさや人間の強さ、絆を描く作品として、今後も語り継がれていくことでしょう。

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