讃

倭王讃（わおうさん）

倭王讃（わおうさん、または讃）は、5世紀前半、日本の古墳時代中期に存在した倭国の王です。生没年は不詳で、珍の兄にあたるとされています。「倭の五王」の最初の王として知られていますが、史料上では王としての明確な記述は見られません。

記録に見る讃

讃に関する記録は、中国の史書『宋書』、『梁書』、『南史』などに断片的に残されています。

宋書
『宋書』倭国伝には、永初2年（421年）に讃が宋の武帝に貢物を献上したことが記されています。これにより、武帝は讃に爵位を授けるよう命じました。また、元嘉2年（425年）には、司馬の曹達を宋に遣わし、文帝に貢物を献上しています。讃の死後、弟の珍が王位を継いだとされています。
『宋書』文帝紀には、元嘉7年（430年）に倭国王が使者を派遣し、貢物を献上したという記述があります。この時の王が讃なのか、珍なのか、あるいは別の王なのかは明確ではありません。
梁書
『梁書』倭伝には、東晋の安帝の時代に倭王「賛」がおり、その死後に弟の「彌」が立ったと記されています。
南史
『南史』倭国伝には、東晋の安帝時代の遣使朝貢と、『宋書』倭国伝の内容が記述されています。

また、『晋書』安帝紀には、義熙9年（413年）に高句麗と倭国が使者を派遣し、貢物を献上したという記事があります。この時の倭国の使者が讃であるという説もありますが、異論もあります。

考証

413年の記事について

『晋書』の記事については、高句麗と倭国の共同使節説、それぞれの単独使節説、高句麗の単独使節説など、様々な解釈があります。特に有力なのは、高句麗が倭国との戦いで得た捕虜を倭国の使者に仕立てて朝貢したとする説です。この説では、朝貢品として記録されている貂皮や人参が高句麗の特産品であることも根拠とされています。

421年の記事について

『宋書』倭国伝の記事では、讃への除授（爵位を授けること）のみが記されており、讃自身が使者を派遣したかどうかは明記されていません。しかし、多くの研究者は、この時に讃が使者を派遣したと考えています。授けられた爵位は、「安東将軍 倭国王」であった可能性が高いとされています。これは、3世紀の卑弥呼以来、約1世紀ぶりに確認される倭国の王の存在を示す重要な史料です。

430年の記事について

『宋書』文帝紀の記事では、使者を派遣した主体が「倭国王」としか記されていません。新王の即位であれば冊封を受けるのが通例であることから、この時の王は讃であるとする説が有力ですが、珍であるとする説もあります。

天皇系譜への比定

『日本書紀』や『古事記』に記された天皇系譜との関連については、讃を応神天皇（第15代）、仁徳天皇（第16代）、履中天皇（第17代）のいずれかに比定する説があります。これは、「武 = 雄略天皇」とする説が有力であることから、武以前の系譜と天皇系譜を比較して考察するものです。

応神天皇説：和風諡号の「誉」と「讃」の意が通じるという指摘があります。
仁徳天皇説：和風諡号の「鷦鷯（ささき）」と「讃」の音が通じるという指摘があります。
履中天皇説：武から4代遡るという点に着目した説です。

墓の比定

倭の五王の活動時期には、百舌鳥古墳群や古市古墳群で巨大な古墳が築造されています。そのため、讃の墓もこれらの古墳のいずれかであると考えられます。一説には、誉田御廟山古墳（現在の応神天皇陵）が讃の墓であるとされています。

まとめ

倭王讃は、5世紀前半の倭国を代表する王の一人であり、中国との外交を通じて倭国の地位を高めようとしました。その実像は、史料の断片的な記述から推測するしかありませんが、当時の東アジア情勢における倭国の存在を示す貴重な手がかりとなっています。

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