谷口知平

谷口 知平

谷口 知平（たにぐち ともへい、1906年4月19日 - 1989年11月8日）は、日本の高名な民法学者。大阪市立大学の発展に貢献し、同大学名誉教授の称号を贈られた。京都大学にて論文博士として法学博士号を取得しており、日本学士院会員にも選ばれるなど、その学識は広く認められていた。京都府に生まれ、末川博に師事した人物である。

略歴

谷口知平の学歴は華々しいものであった。1929年に京都帝国大学法学部を卒業すると、同年中に新設の大阪市立商科大学（後の大阪市立大学）の助教授に就任した。1942年には同学部の教授に昇任し、戦後の1949年には大阪市立大学教授として、長年にわたり教鞭をとった。この年、京都大学より博士論文「不当利得の研究」によって法学博士の学位を授与されている。1970年に大阪市立大学を定年退官した後は、同大学の名誉教授となり、龍谷大学教授として教育・研究活動を継続した。1977年には学術分野における最高の栄誉の一つである日本学士院会員に推挙された。1987年に龍谷大学を退職し、1989年にその生涯を閉じた。

人物と背景

谷口は京都市下京区木屋町仏光寺に生を受け、風光明媚な山紫水明処に隣接する屋敷で育った。幼少期には、京都の伝統的な祭りである祇園祭において、長刀鉾の稚児を3年間務めた経験を持つ。家族構成としては、民事訴訟法学者の谷口安平が次男にあたり、裁判官の谷口安史は孫にあたる。

学業においては、京都府立京都第一中学（現在の京都府立洛北高等学校・附属中学校）を4年間一貫して首席で卒業し、第三高等学校へと進学した。京都帝国大学においても、卒業に必要な履修科目が18課目であった当時、その倍以上にあたる40課目を履修し、さらに平均点において首位を維持して卒業するという傑出した成績を残した。

大学卒業時には、京都帝国大学の助手や九州帝国大学の助教授という選択肢があったにもかかわらず、大学4年時の1928年5月、京都帝国大学経済学部教授であり、大阪市立商科大学の初代学長に内定していた河田嗣郎から直接、新設大学の初期スタッフとして指名を受けたことを契機に、卒業後すぐに大阪市立商科大学の助教授に着任した。その後、母校である京都大学から再三にわたり招聘があったが、谷口はこれを固辞し続け、結果として大阪市立大学（前身を含む）に定年まで在籍するという、その大学への強い愛着と貢献の姿勢を示した。

主な研究業績

谷口知平の民法学における研究は多岐にわたるが、特に重要なのは『不当利得の研究』と『不法原因給付の研究』である。『不当利得の研究』は、日本国内で初めて不当利得全体を包括的に論じた研究書として極めて高く評価され、戦後の民法学の発展に大きな影響を与え、我妻栄といった著名な学者にも影響を及ぼした。この分野における谷口の功績を称え、彼の還暦を記念して刊行された論文集『不当利得・事務管理の研究』全三巻には、全国の多くの学者から事務管理・不当利得分野に関する論文が寄せられた。

また、日本の民法コンメンタールの中で最も権威あるものの一つとされる『注釈民法』の編集代表を長年にわたり務めた。共同編集代表であった中川善之助や柚木馨の死去に伴い、その後の新版である『新版注釈民法』では編集代表の筆頭にその名が記されている。

さらに、谷口は宗教法の研究の先駆者としても特筆される。寺檀紛争や墓地紛争といった社会に実在する宗教関連の紛争に着目し、民法の規定とは異なる宗教法独自の規範性や、慣習法としての法源性が存在することを日本で初めて学術的に提唱した学者として、その独創的な業績が高く評価されている。

主要著作

『英米契約法原理』（有斐閣、昭和7年）
『日本親族法』（弘文堂、昭和10年）
『仏蘭西民法Ⅰ人事法』（有斐閣、昭和14年）
『不当利得の研究』（有斐閣、昭和24年）
『不法原因給付の研究』（有斐閣、昭和24年）
『新民法要説』（有斐閣、昭和24年）
『親子法の研究』（有斐閣、昭和31年）
『戸籍法（法律学全集25-Ⅰ）』（有斐閣、昭和32年）
『家族法判例研究』（有斐閣、昭和56年）
『民法論第一巻』（有斐閣、昭和63年）
『民法論第二巻』（有斐閣、平成元年）
『民法論第三巻』（有斐閣、平成2年）
『民法論第四巻』（有斐閣、平成3年）

主要編著

『注釈民法第1巻』（有斐閣、昭和39年）
『注釈民法第13巻』（有斐閣、昭和41年）
『注釈民法第18巻』（有斐閣、昭和51年）
『注釈民法第25巻』（有斐閣、昭和45年）
『新版注釈民法第1巻』（有斐閣、昭和62年）
『新版注釈民法第13巻』（有斐閣、平成8年）
『新版注釈民法第18巻』（有斐閣、平成元年）
* 『新版注釈民法第27巻』（有斐閣、昭和63年）

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