豆莫婁

豆莫婁：中国東北部の謎多き民族

6世紀から8世紀にかけて、中国東北部の嫩江流域に存在した豆莫婁（Dòumòlóu）は、歴史の表舞台に突如現れ、やがて静かにその姿を消した謎多き民族です。様々な史料からその文化や生活、歴史を紐解いていきましょう。

歴史：北夫余からの継承と唐への朝貢

豆莫婁の起源は、高句麗によって滅ぼされた北夫余に遡ります。北夫余の生き残りの人々は、那河や他漏河を渡り、嫩江流域に新たな拠点を築き、豆莫婁として独自の文化を形成していきました。 大莫盧、達末婁といった表記も見られ、その歴史的変遷の複雑さを伺わせます。唐代には達末婁として知られ、開元11年（723年）には達姤とともに唐に朝貢した記録が残されています。この朝貢は、豆莫婁が唐と一定の外交関係を結んでいたことを示す重要な証拠です。

言語：モンゴル系の可能性

豆莫婁の言語は、史書『魏書』や『北史』に「旧北扶余」と記されていることから、扶余諸語に属する可能性が指摘されています。しかし、これらの史書には「庫莫奚、契丹、豆莫婁の言語は同じである」との記述もあり、モンゴル系の言語を話していた可能性も否定できません。現時点では断定的な結論はなく、今後の研究による更なる解明が待たれます。言語学的な分析や、発掘調査による新たな証拠の発見が、この謎解きを前進させる鍵となるでしょう。

地理：肥沃な平原と豊かな自然

史書の記述によると、豆莫婁の居住地は勿吉国の北、洛陽から6千里的距離に位置し、西には室韋、東には日本海が広がる東西2千里的広大な地域に広がっていました。「東夷において最も平坦な地」と評されるほどで、五穀の栽培には適していたものの、桃や李などの果樹栽培には適さなかったようです。肥沃な土地と豊かな自然に恵まれた環境が、豆莫婁の生活を支えていたと考えられます。

習俗：強勇で秩序ある社会

豆莫婁の人々は背が高く、強勇で謹厳な性格の人々として描かれています。略奪行為を行わず、秩序ある社会を築いていたようです。支配者は六畜（馬、牛、羊、犬、豕、鶏）の名を官名として用い、各集落には豪帥が存在していました。飲食の習慣は近隣の勿吉とは異なり、俎豆（そとう）を用いていたという記述があります。麻布を用いた衣類は高句麗と類似していましたが、帽子は大きかったと伝えられています。また、大人たちは金銀の装飾品を身につけていたことから、ある程度の富裕さを享受していた可能性が示唆されます。

刑罰：厳格な法制度

豆莫婁の刑罰制度は、北夫余時代のものを引き継いでいたと考えられます。その刑罰は非常に厳しく、殺人罪は死刑であり、犯人の家族は奴婢として扱われました。また、淫らで妬ましいとされた者は殺され、その遺体は国の南山上に放置され、腐敗させられました。遺族は牛馬と交換することで遺体を回収することができたと伝えられています。この残酷な刑罰は、豆莫婁社会における秩序維持の厳しさを物語っています。

まとめ：今後の研究に期待

豆莫婁は、その存在が歴史の断片として残る謎多き民族です。北夫余の末裔でありながら、モンゴル系の言語を話すという彼らのアイデンティティ、独自の文化や厳格な刑罰制度など、多くの謎が残されています。今後の研究、特に発掘調査や言語学的な分析によって、豆莫婁の全貌がより鮮明に浮かび上がってくることが期待されます。彼らの歴史を解き明かすことは、中国東北部における古代史理解を深める上で重要な一歩となるでしょう。

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