室韋(しつい)は、
6世紀から
10世紀にかけて、
中国東北部の
嫩江、
アルグン川、黒竜江流域を中心に栄えた
民族です。初期には失韋国と呼ばれ、その起源は諸説ありますが、鮮卑宇文部の末裔とする説や、東胡系
丁零の末裔とする説などがあります。現代の
モンゴル系[[民族]]の祖先の一つと考えられており、『オルホン碑文』に登場する三十姓タタル(オトゥズ・タタル)との関連性も指摘されています。
室韋の部族構成と勢力拡大
北朝時代から
隋代にかけては、南室韋、北室韋、鉢室韋、深末怛室韋、大室韋の5部に分裂していました。大室韋は他の部族とは
言語が異なるほどに、独自の文化圏を形成していたとされています。
唐代になるとさらに細分化が進み、20数もの部族が存在するようになりました。それぞれの部族は独自の勢力圏を持ち、黄頭室韋のように強力な軍事力と人口を誇る部族もあれば、訥北室韋のように小規模な部族もありました。烏素固、移塞没、塞曷支といった部族は、
回鶻の東に位置し、良馬の産地として知られていました。特に塞曷支部は、人口も多く、その時代の室韋の中でも最も勢力を誇っていました。この他にも、烏丸国、蒙兀室韋(後のモンゴル部とされる)、東室韋など、様々な部族が室韋の勢力圏に含まれていました。烏丸国と東室韋は、烏桓族の子孫である可能性が示唆されています。
室韋と周辺勢力との関係
室韋は、
唐、
遼、金といった中国王朝と深い関わりを持っていました。
唐代には、度々朝貢を行い、時には反乱を起こすなど、複雑な関係を築いていました。
突厥との関係も深く、一時的に
突厥の支配下に入っていた時期もありました。
突厥討伐への協力を申し出るなど、
唐との外交関係は複雑に推移しました。しかしながら、奚族と共に
唐の領土を侵攻するなど、武力衝突もあったことが史書に記録されています。
遼代になると、室韋は
契丹の支配下に置かれ、その属民として
遼の遠征に参加したり、定期的に朝貢を行うようになりました。耶律阿保機の時代には、
遼の軍事行動に重要な役割を果たしたとされます。金の時代には、金軍の攻撃を受け、多くの民衆が捕虜となりました。これ以降、室韋という名称は史書から姿を消します。
室韋の文化と風習
室韋の生活様式は、地域によって異なっていました。南室韋は農耕と牧畜を営み、粟、麦、稗を栽培し、豚や牛を飼育していました。衣服は
契丹と同様でしたが、北室韋では狐や狢の毛皮、魚の皮を衣服に使用していました。北室韋では、狩猟や漁業が主要な生業であり、鹿の肉や皮革、魚を食料としていました。住居は、地域や季節によって異なり、夏は高床式の住居、冬は移動式住居や半地下住居を使用していました。
言語は、庫莫奚、
契丹、豆莫婁などと同じ系統であったとされ、モンゴル系
言語に属すると考えられています。婚姻制度では、レビラト婚(夫の兄弟と再婚すること)は行わず、葬儀では、遺体を林樹や大棚の上に安置する風習がありました。部族長は、「余莫弗瞞咄」、「乞引莫賀咄」、「莫賀咄」などと呼ばれ、世襲制をとっていました。
室韋と三十姓タタル、九姓タタル
室韋は、三十姓タタル(オトゥズ・タタル)として知られていました。これは、
8世紀の『ホショ・ツァイダム碑文』に記載されています。一方、『シネ・ウス碑文』には、九姓タタル(トクズ・タタル)が登場します。両者の関係は
明確ではありませんが、同じ起源を持つ可能性も指摘されています。三十姓タタルは、後のモンゴルやタタル部族の起源となったと考えられており、
モンゴル高原における勢力拡大に大きな役割を果たしたと考えられています。また、萌古国(モンゴル)の成立にも室韋が関わっていた可能性が示唆されており、室韋はモンゴル
民族の成立において重要な役割を果たしたと考えられます。
まとめ
室韋は、
中国東北部で繁栄した古代
民族であり、その歴史は
唐、
遼、金といった中国王朝と深く関わっていました。多様な部族から成り、独自の文化や風習を持っていました。そして、現代の
モンゴル系[[民族]]の祖先の一つとして、その歴史的意義は非常に大きいです。今後の研究によって、室韋に関するさらなる知見が得られることが期待されます。