豊原放送局

豊原放送局 (JDAK)

豊原放送局は、1941年（昭和16年）12月、現在の日本放送協会（NHK）の前身である社団法人日本放送協会によって、当時の日本領であった南樺太の豊原市（現在のロシア連邦サハリン州ユジノサハリンスク）に開設された重要なラジオ放送局です。呼出符号（コールサイン）はJDAKと定められました。しかし、太平洋戦争の終結が迫る1945年（昭和20年）8月、ソビエト連邦軍（赤軍）による樺太侵攻（樺太の戦い）に伴いその局舎が接収され、地域への放送はその歴史に幕を下ろすこととなりました。

豊原放送局は、豊原市大字豊原字南二線東十三番地、現在のガガーリン記念文化公園内に位置する豊原公園内に局舎を構えていました。

当初、仮放送では周波数620kc（出力1kW）が割り当てられ使用されていましたが、正式な本放送開始時には750kc（出力50W）に変更されました。この周波数変更は、太平洋戦争開戦に伴う電波管制のための臨時的な措置であったとされています。その後、無線での周波数 broadcast は停波し、電力線を利用した有線放送へと切り替えられることとなりました。

開局までの道のり

豊原に放送局が開設されるまでには、長い道のりがありました。

南樺太におけるラジオ聴取の歴史は、1925年（大正14年）に大阪朝日新聞社が行った試験放送を、大泊無線局が受信し、その成功を報じる祝電を大阪本社に送った出来事に遡ります。このことは翌日の放送で紹介され、関係者を大いに勇気づけたと伝えられています。しかし、当時の日本本土（内地）からの放送を受信するためには、高性能で高価な受信機が必要だったため、一般家庭へのラジオ普及はなかなか進みませんでした。

状況が改善に向かったのは、1928年（昭和3年）6月に日本放送協会札幌放送局および仙台放送局が放送を開始してからです。これにより樺太での受信状況が大きく改善され、ラジオを聴く人々が徐々に増加しました。さらに、1933年（昭和8年）10月には豊原にラジオ相談所が開設され、受信機の修理や調整が可能になったことで、聴取環境の維持が容易になりました。

このような背景のもと、樺太庁でも独自の放送事業の可能性について研究が進められました。1936年度（昭和11年度）の予算には放送施設整備のための建設費が計上されましたが、残念ながらこの予算案は成立せず、計画は頓挫の憂き目を見ます。そこで樺太庁は方針を転換し、樺太庁が中心となって住民を含む官民一体となり、日本放送協会と当時の逓信大臣に対し、豊原への放送局開設を強く請願する活動を展開することになりました。こうした熱意ある請願が実を結び、日本放送協会は1938年（昭和13年）に豊原放送局の開設を正式に決定しました。

沿革

開設決定後、具体的な準備が進められました。

1936年（昭和11年）8月: 札幌中央放送局が、樺太庁始政30回記念樺太拓殖共進会の開催地（豊原）に臨時の放送局を開設。呼出符号JDAKを用い、博覧会のニュースや会場の模様を実況中継するなどの放送を行った他、豊原周辺の電波受信状況についても詳細な調査を実施しました。
1937年（昭和12年）: 日本放送協会により、豊原市内の豊原公園内に局舎を建設する用地が選ばれました。
1938年（昭和13年）: 日本放送協会が豊原放送局の開設を正式に決定しました。
1940年（昭和15年）5月: 日本放送協会が豊原放送局の建設工事に着手しました。
1941年（昭和16年）11月21日: 豊原放送局の放送施設として正式な許可が下り（呼出符号JDAK、出力1kW）、同日には出力1kWでの試験電波発射も開始されました。
1941年（昭和16年）12月8日: 太平洋戦争開戦の臨時ニュースを伝えるため、急遽、仮放送が開始されました。
1941年（昭和16年）12月26日: 出力50Wに切り替えられ、正式な本放送が開始されました。
1942年（昭和17年）3月21日: 電波管制のため、周波数放送から電力線を利用した有線放送（50W）に変更されました。
1943年（昭和18年）12月1日: 組織再編により、豊原放送局に札幌中央放送局の豊原分室が設置されました。
1944年（昭和19年）12月: 樺太内の大泊や真岡といった他の都市でも、電灯線を利用した有線放送が順次開始されました。
1945年（昭和20年）8月9日: ソビエト連邦は日本に宣戦を布告し、直ちに北緯50度線を越えて南樺太への侵攻を開始しました。
1945年（昭和20年）8月15日: ポツダム宣言受諾を伝える歴史的な終戦の詔勅、いわゆる玉音放送を放送しました。
1945年（昭和20年）8月23日: ソ連軍の市内への進駐に伴い、豊原放送局からの放送は完全に停止されました。
1945年（昭和20年）8月28日: 局舎はソ連軍によって正式に接収されました。

戦後の局舎

豊原放送局の局舎は、戦後もソビエト連邦、そしてソビエト連邦の崩壊後はロシア連邦のラジオ放送局として引き続き利用されました。1996年時点で行われた調査では、建物の一部や当時の放送機材、そして放送塔などが現役で使用されている様子が確認されています。

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