贔屓

贔屓（ひき）とその象徴性：中国の伝説と日本の石碑

中国の伝説にその姿を現す贔屓（ひき、拼音: Bìxì）は、龍の九子（りゅうのくし）と呼ばれる神獣の一つです。その容姿は亀に似た姿で描かれ、巨岩や石碑などの重量物を支えることを好むとされています。そのため、古くから中国では石碑や石柱の土台として、贔屓をかたどった装飾が用いられてきました。

日本では、贔屓は「ひいき」という熟語で親しまれ、「贔屓の引き倒し」という諺にもその名が用いられています。この諺は、過度な偏愛が逆に相手を災いに陥れることを意味しますが、その語源は、石碑の土台である贔屓を無理に引っぱると石碑が倒れてしまうという、物理的な現象に由来すると考えられています。

贔屓という名称の由来については諸説ありますが、字面から「財貨を多く抱える」という意味に解釈される俗説もあります。しかし、実際には「贔」の字に含まれる「貝」は「罒＋大」の変化、「屓」の字に含まれる「貝」は「自」の変化であり、財貨とは直接的な関連性はありません。むしろ「ひき」という音は、中国語で力んでいる様子を表す擬音語に由来する、という説が有力です。

明代の文献『懐麓堂集』（李東陽著）や『升庵外集』（楊慎著）にもその名が確認できることから、贔屓は古くから中国文化において重要な象徴として認識されてきたことがわかります。

日本における贔屓の石碑：歴史と文化の痕跡

日本には、中国から伝わったと考えられる多くの贔屓を載せた石碑が現存しています。これらの石碑は、様々な目的で建立されており、その背景には日本の歴史や文化が深く関わっています。主な例としては、以下のようなものがあります。

1. 大名墓地等:

徳川家墓地（茨城県）、会津松平家墓地（福島県）
池田氏墓地（鳥取県）、池田輝政（岡山県）
毛利家墓地（山口県）、松平家墓地（島根県）
その他、多くの藩主や大名家の墓所に、贔屓を載せた石碑が建立されています。これらは、大名家の権威や歴史を象徴するものでした。

2. 菩提寺等を顕彰するもの:

越前松平家菩提寺（福井県）、春日局ゆかりの亀趺碑（東京都）など、大名の菩提寺を顕彰する目的で建立された石碑も多数存在します。

3. 神格等を顕彰するもの:

孔子廟（文廟）関係、神社仏閣など、神や仏、聖賢を祀る場所にも、贔屓を載せた石碑が建立されています。

4. 古の文人や歴史上の人物を顕彰するもの:

柿本人麻呂碑（兵庫県、島根県）、楠木正成の墓（兵庫県）など、歴史上の人物や文人を顕彰する目的で建立された石碑も見られます。

5. 舎利塔:

亀趺塔（茨城県）など、仏教関連の建造物にも使用されています。

これらの石碑は、単なる石造物ではなく、それぞれの建立背景、歴史的・文化的文脈を反映した貴重な遺構であり、中国文化と日本の文化交流の歴史を物語る存在と言えます。また、それらは、現代においても歴史遺産として保護・保存され、後世に伝えられています。

参考文献

* 荒俣宏『怪物の友』

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