赤絵式

赤絵式：古代ギリシア陶器の新たな表現

赤絵式は、紀元前6世紀末のアテネで誕生したギリシア陶器の絵付け技法です。黒絵式とは異なる技法を用いており、壺全体を塗りつぶすことで、絵柄の部分が赤く浮かび上がるのが特徴です。この赤みを帯びた土の色合いから「赤絵式」と名付けられました。

黒絵式が線刻による表現だったのに対し、赤絵式では壺の地を塗りつぶし、絵柄の部分を残すことで、より自由で繊細な表現が可能となりました。絵の細部は筆で直接描き込まれるようになり、表現の幅は大きく広がりました。初期の赤絵式絵付師たちは、黒絵式やシックステクニック、白地技法なども駆使していました。白地技法は赤絵式とほぼ同時期に開発された技法です。しかし、20年ほど経つと、人物像を主題とする陶器には赤絵式が、初期の花模様などには黒絵式が用いられるようになりました。

特に注目すべきは、エウフロニオスやエウテュミデスといった、この時代の著名な絵付師たちです。彼らは優れた芸術家であるだけでなく、何らかの共通の価値観や目標を共有し、意識的に活動していたと推測されています。彼らの活動は、考古学的な成果によって、経歴や目的、競争関係などが解明されつつあります。

赤絵式の展開と発展

紀元前5世紀に入ると、赤絵式はさらに発展していきます。アルカイック後期（紀元前500～480年頃）の絵付師たちは、自然主義的な表現へと傾倒していき、人物の横顔の目の描き方にもその変化が現れています。この時期には、大型陶器を専門とする絵付師と、小型陶器を専門とする絵付師に分化していく傾向が見られます。「ベルリンの画家」、「クレオフラデスの画家」といった大型陶器の専門家や、ドゥーリス、オネシモスといった小型陶器の専門家が活躍しました。

紀元前480年から紀元前425年頃にかけては、赤絵式は様々な流派へと発展を遂げます。「マンネリスト」と呼ばれる絵付師たちは、古風で誇張された衣服の描き方やポーズを用いていました。一方、「アキレスの画家」は自然なポーズを好み、黒い背景や白地のレキュトスに人物像を一つだけ描くのが特徴でした。「ニオベの子の画家」の流派は、パルテノン神殿の彫刻の影響を受けた主題や構成の作品を生み出しました。ポリュグノトスや「クレオフォンの画家」もこの流派に属します。

紀元前5世紀末頃には、アテーナー・ニーケー神殿に見られるような彫刻の影響が顕著になり、髪の毛や宝石などの細部描写が精緻化されていきます。「メイディアスの画家」はこの時代の代表的な絵付師です。

赤絵式の衰退とその後

アテネでは、紀元前330年から紀元前320年頃、アレクサンドロス3世の支配下に入ったことを契機に陶器生産は中断し、政治的地位の低下とともに衰退していきました。しかし、南イタリアのギリシア植民地では、紀元前4世紀から紀元前3世紀にかけても陶器生産が続けられ、アプリア、ルカニア、シチリア、カンパニア、パエストゥムといった地域ごとに異なる様式が発展しました。多彩色を加えた赤絵式も生まれました。また、黒海沿岸の植民地パンティカパイオンでは、豪華なケルチ様式が誕生しました。

紀元前4世紀後半に活躍した「ダリウスの画家」や「冥界の画家」といった絵付師たちは、それまでの絵付師には見られない複雑な多色の場面を描写し、感情表現にも挑戦しました。

赤絵式は、古代ギリシア陶器における重要な絵付け技法として、その発展と衰退の歴史を通じて、ギリシア美術の変遷を物語る貴重な資料となっています。

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