越前家 (島津氏)

越前島津氏：薩摩から播磨、そして薩摩へ至る一族の歴史

越前島津氏は、南九州を拠点とした名門・島津氏の分家です。その歴史は、承久の乱(1221年)における島津忠久の功績に端を発します。忠久が越前国守護職に任じられた際、その次男である忠綱が守護代に任命されたことから、越前島津氏の系譜が始まりました。同時に、忠久の嫡男・忠時は若狭国守護を務めており、島津氏は北陸地方にも大きな影響力を持っていました。

弘安2年(1279年)、忠綱の嫡男である忠行は播磨国下揖保荘(現在の兵庫県たつの市)の地頭職に任じられ、当地に移住しました。以降、越前島津氏は播磨国を拠点とし、有力な国衆として活躍します。この播磨を拠点とした一族は、播磨島津氏と呼ばれることもあります。

南北朝時代には、7代当主忠兼が足利尊氏に従い、畿内各地を転戦。その活躍は、国の重要文化財に指定されている『越前島津家文書』(国立歴史民俗博物館蔵)に詳細に記されています。同文書には、15代当主忠長が天文3年(1534年)の朝日山合戦で戦死するまでが記録されています。忠長は赤松氏と浦上氏の抗争において、赤松氏側に属していました。

忠長の死後、下揖保荘と布施郷は一時的に領主不在となりますが、忠長の嫡男である新九郎忠之が守護である赤松氏から地頭職を任じられました。しかし、忠之は天正3年(1575年)、小寺政職との戦いで戦死します。幼少だった忠之の子・義弘は、母と共に立岡山城から下揖保荘上村に移り、その後は郷士として生活し、子孫は代々たつの市揖保上周辺に居住しました。現在でも、同地域には多くの島津姓の人々が暮らしています。

一方、薩摩国では、元文2年(1737年)、22代薩摩藩主島津継豊が、弟の忠紀に越前島津家の名跡を継がせ、同家の復興を図りました。翌元文3年には、薩摩藩によって龍野藩上村の越前島津氏末裔に関する調査が行われ、権兵衛忠義が越前島津家の一族であると認められましたが、正嫡かどうかは結論が出ませんでした。

復興に際し、大隅国や薩摩国の一部地域が越前島津家の旧領である重富郷とされ、石高1万4000石を有する重富家として位置付けられました。重富家は島津御一門家の筆頭格とされ、後に「国父」と称された島津久光も、同家の養子になった時期があります。

忠綱の三男忠景とその子孫も、越前島津氏を語る上で欠かせません。忠景やその子・忠宗、孫・忠秀は歌人として活躍し、多くの歌が『十三代集』などに収められています。系図の中には、忠行ではなく忠景系統を正統とするものもあります。忠秀の庶子と伝わる安芸守忠信(忠章)は出家し、祖海と号し、その子孫は越前国に居住したとされています。『太平記』に登場する「島津安芸前司」は、この忠信のことであるとする説もあります。現在、福井市生部町には「越前島津氏屋敷跡」があり、石碑が建立されています。

さらに、忠綱の四男である忠頼の子孫は近江国に進出し、江州島津氏の祖となりました。

このように、越前島津氏は、播磨、薩摩、越前など各地で勢力を持ち、その系譜は複雑に枝分かれしながら、現代まで続いています。その歴史は、各地に残る史料や系図、そして現在も続く島津姓の人々によって、今なお語り継がれています。

参考文献
丸山晴久「越前島津氏とその系譜」（『神奈川県博物館協会会報』20号・1968年）
藤井秀夫「播磨の島津氏について」（たつの市立龍野図書館蔵・1969年）
湯山賢一「越前島津家文書について」（『古文書研究』14・15号・1979年・80年）
国立歴史民俗博物館編『中世の武家文書』（全国書誌番号91069347・1989年）
杉本雅人『越前島津氏－その事歴と系譜』（全国書誌番号21733580・1997年、増訂版2010年）
姶良町歴史民俗資料館編『越前（重富）島津家の歴史』（全国書誌番号20728416・2004年、改訂版2006年）

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