越後つついし親不知

越後つついし親不知：雪国に咲く悲劇と、映画界に衝撃を与えた問題作

1964年、東映から公開された今井正監督の映画『越後つついし親不知』は、水上勉の同名小説を原作とする作品です。雪深い越後の寒村を舞台に、京都の酒蔵へ出稼ぎに出た夫を待つ若妻の身に降りかかる悲劇が、鮮烈な映像で描かれています。公開当時、映画倫理管理委員会から成人映画の指定を受け（映倫番号13496）、大きな話題を呼びました。

物語の舞台と登場人物

映画は、厳しい自然環境と閉鎖的な村社会の中で生きる人々の姿を克明に映し出します。主人公の若妻は、佐久間良子が演じ、夫の帰りをひたすら待ち続ける姿は、観る者の心を揺さぶります。三國連太郎演じる夫や、周囲の人物たちも、それぞれの事情を抱え、複雑に絡み合う人間模様が展開します。小沢昭一、田中春男、佐藤慶など、実力派俳優陣の熱演も見どころです。

スタッフと製作

監督は、数々の名作を世に送り出した今井正。脚本は八木保太郎が担当し、音楽は池野成、撮影は中尾駿一郎、美術は森幹男といった、当時の映画界を代表するスタッフが結集しました。製作は大川博が務め、企画は岡田茂が手がけました。

特に岡田茂の関与は、本作の成り立ちにおいて重要な要素です。岡田は、佐久間良子を「不良性感度」を体現する女優と見抜き、彼女を主演に据えることを決断しました。当時、清純派路線が主流だった佐久間良子を、セックスアピールのある女優として起用する岡田の慧眼は、本作の成功に大きく貢献したと言えるでしょう。東映東京撮影所長だった岡田茂の後任、今田智憲も、佐久間良子への説得に尽力し、製作へと繋がりました。

映画公開とその後

『越後つついし親不知』は、成人映画指定を受けたことで、社会的な議論を巻き起こしました。しかし、同時に高い評価も得て、観客動員数を伸ばしました。この映画は、岡田茂が推進した「不良性感度」路線を象徴する作品となり、後の東映の映画製作にも大きな影響を与えました。

岡田茂は、本作と同じスタッフ、佐久間良子主演、八木保太郎脚本、今井正監督という布陣で、1967年には『大奥㊙物語』を企画しました。しかし、八木保太郎と今井正が岡田の意向に反発し、脚本は共作に変更、監督は中島貞夫に交代という事態に。それでも、『大奥㊙物語』は「大奥もの」「集団女性時代劇」「東映ポルノ」の原点として評価される作品となりました。

舞台化とロケ地

小説と映画の成功を受け、1973年には本田延三郎の五月舎により舞台化もされました。翌年には、太地喜和子が本作と『藪原検校』で紀伊国屋演劇賞を受賞しています。映画のロケ地は、新潟県糸魚川市で行われました。

まとめ

『越後つついし親不知』は、過酷な自然と人間模様を描いた傑作であり、同時に、映画界に衝撃を与えた問題作でもあります。水上勉の原作、今井正監督の演出、そして岡田茂の製作姿勢、そして佐久間良子を始めとする豪華キャストの演技が一体となり、時代を象徴する作品となりました。この映画は、日本の映画史において、重要な位置を占める作品として、これからも語り継がれていくでしょう。

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