越裳

越裳（えつしょう）とは、古代中国の歴史書に登場する、中国南部に居住していたとされる民族の名称です。後漢時代の思想家、王充の著書『論衡』や、班固・班昭父娘が編纂した『漢書』といった文献にその名が見られます。特に『漢書』では「越裳氏」、『論衡』では「越常（えつじょう）」と表記されています。

『論衡』によれば、越裳は西周時代の成王の治世に、天下が平和であることを示す象徴として、白い雉を献上したとされています。この出来事は、東方に住む倭人が鬯草（ちょうそう）を献上したことと並んで、当時の平和な世の中を象徴する出来事として著者に捉えられています。

この「越」という文字は「粤（えつ）」とも書かれます。『漢書』地理志には、「粤」の王は皆、夏王朝の始祖である禹の子孫であり、その子孫は帝少康の庶子の子孫であると記されています。また、粤には多くの分派があったため、「百粤」とも呼ばれていました。

越裳の記録は、前漢の平帝の時代にも残されています。西暦1年、平帝の元始元年、越裳氏は白い雉1羽と黒い雉2羽を献上したと『漢書』平帝紀、王莽伝、そして『論衡』恢国篇に記載されています。この献上は、過去の記録を裏付けるものとして、歴史的な出来事として重視されました。

これらの記録から、越裳は古代中国において、南方地域に居住し、中国王朝との交流があった民族であったと考えられます。彼らの献上物は、単なる貢物というだけでなく、当時の政治的な状況や文化的な交流を物語る重要な要素として捉えることができます。文献に散見される越裳の記録は、古代中国と周辺民族との関わりを研究する上で、貴重な資料となっています。

越裳の献上した雉は、当時の王朝が平和を尊び、周辺民族との友好関係を重視していたことを示す象徴的な出来事とも解釈できます。これらの出来事は、当時の文化や思想、そして政治的な背景を理解する上で重要な手がかりとなります。また、越裳の名称が複数の文献で異なる表記で記されていることからも、その伝承が多様な形で伝えられてきたことが窺えます。これらの記録を詳細に分析することで、古代中国における民族認識や文化交流の実態をより深く理解することができるでしょう。

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