太田資清

太田資清：室町・戦国期の知将、扇谷上杉家を支えた名宰

太田資清（おおた すけきよ）は、室町時代中期から戦国時代前期にかけて活躍した武将です。相模守護代、そして扇谷上杉家の家宰という要職を歴任し、その知略と武勇で名を馳せました。特に長尾景仲と共に「関東不双の案者（知恵者）」と称えられたことは、彼の傑出した才能を示す何よりの証左と言えるでしょう。

生涯

関東の知恵者

太田氏は代々扇谷上杉家の家宰を務める家柄であり、資清もその例に漏れず、上杉持朝に仕え家宰職と共に相模守護代を兼務しました。若い頃から文武両道に秀でており、その人柄と才能に惹かれた関東の武将たちは、彼に心服したと伝えられています。特に歌道においては、後に歌人として名を馳せる嫡男の太田道灌（資長）すら凌ぐほどの才能を発揮したと言われています。

永享11年（1439年）に勃発した永享の乱では、鎌倉公方足利持氏と関東管領上杉憲実（山内上杉家）が激しく対立しました。資清が仕える扇谷家は山内家に味方し、持氏は幕府軍の追討を受け滅亡しました。この戦いにおいて、持氏の残党である一色氏を討った武将の中に「太田備中守資光」という人物がおり、これが史料における資清の初出であると考えられています。

文安4年（1447年）、上杉家の願いが叶い、鎌倉公方再興が許可され、持氏の遺児である足利成氏が鎌倉公方に迎えられました。同時に、山内家当主の上杉憲忠が関東管領に就任します。若年の憲忠を補佐したのは、山内家家宰であり、資清の義父にあたる長尾景仲でした。一方、扇谷家も当主の持朝が持氏を永安寺で攻め殺した経緯からか、隠居し家督を嫡男の顕房に譲りました。顕房もまた若年であったため、資清がこれを補佐することになりました。こうして、両上杉家を支える立場となった景仲と資清は、互いに協力し合い、「関東不双の案者」としてその名を轟かせたのです。

文安4年（1447年）の書状に「道真」という署名が見られることから、この頃には資清は出家していたと考えられます。

関東大乱

成氏は、父を死に追いやった憲実の子である憲忠を深く憎み、事あるごとに対立しました。宝徳2年（1450年）、景仲と道真は鎌倉にある成氏の御所を急襲するという強硬手段に出ます。成氏は辛くも江の島へ逃れ、小山氏、千葉氏、宇都宮氏らの支援を得て反撃に転じ、由比ヶ浜で激しい合戦が繰り広げられました。最終的には仲介が入り両者は和睦しましたが、その遺恨は深く残りました（江の島合戦）。

成氏と憲忠の対立は収まることなく、享徳3年（1454年）12月、ついに成氏は憲忠を暗殺するという暴挙に出ました。これに対し、景仲は憲忠の弟である房顕を山内家当主に擁立し、翌康正元年（1455年）、上杉方は反撃を開始、武蔵分倍河原で成氏と激突しますが大敗を喫し、顕房が戦死するという痛ましい結果となりました。道真は顕房の子である政真を家督に立てますが、幼少であったため、先代の持朝が再び家督に復帰することになりました。

その後、成氏は幕府軍の攻撃を受け鎌倉を逃れ、下総古河城に拠点を移し、古河公方と称するようになります。古河公方と両上杉家との間で繰り広げられた抗争は、享徳の乱と呼ばれ、その後30年近くにも及ぶ長期戦へと発展していきました。

康正2年（1456年）、道真は嫡子である資長に家督を譲ります。しかし、隠居はせず、実権は握り続けたとされています（家督を譲ったのは寛正2年（1461年）とする説もあります）。

古河公方との戦いに備えるため、康正2年から長禄元年（1457年）にかけて、道真・資長父子は河越城（埼玉県川越市）、岩槻城（埼玉県さいたま市）、そして江戸城（東京都千代田区）を築城しました（ただし、岩槻城については、道真・資長父子ではなく成田正等による築城説が有力となっています）。

資長が江戸城を居城としたのに対し、道真は主に扇谷家の本拠である河越城を守り、主君である持朝を補佐していたようです。文明元年（1469年）には、道真はこの河越城に著名な歌人である宗祇と心敬を招き、連歌会を催しました。この連歌会は「河越千句」として後世にまで語り継がれています。道真の連歌作品は、宗祇が編纂した『新撰菟玖波集』に収録されています。

長禄2年（1458年）、8代将軍足利義政の異母兄である足利政知が関東に下向し、伊豆に留まり、堀越公方と称しました。しかし、政知は持朝と対立し、寛正2年（1461年）には持朝の相模守護としての活動が停止され、翌年には持朝謀反の噂が流れ、政知の執事である渋川義鏡の讒言によって扇谷家の重臣である三浦時高・大森氏頼・千葉実胤らが隠遁に追い込まれました。道真もこの政争に巻き込まれ、寛正2年に隠居したとされています（後に幕府の調停によって両者は和解し、義鏡は失脚しました）。

新たな戦乱

応仁元年（1467年）、道真が長年仕えた持朝が河越で死去しました。家督は孫の政真が継ぎ、道真は政真に従い武蔵五十子陣（埼玉県本庄市）で古河公方と対陣しました。一方、資長は江戸城にあって武蔵、相模の守りを固めました。

文明5年（1473年）、古河公方の軍勢が五十子陣に攻め込み、政真が討ち死にしてしまうという悲劇が起こりました。資長ら老臣達の評定によって、政真の叔父である定正が家督に迎えられました。

文明9年（1477年）、山内家重臣の長尾景春（景仲の孫）が古河公方と結び反乱を起こし、五十子陣を急襲しました。上杉軍は大敗を喫し、五十子を守っていた山内家当主の上杉顕定、定正、道真は上野へ敗走するという苦境に立たされました（長尾景春の乱）。

関東の多くの国人が景春に呼応したため、両上杉家は存亡の危機に瀕しました。この危機を救ったのが、道真の子である道灌（資長の法名）でした。道灌は石神井城の豊島氏をはじめ、各地の景春方を次々と打ち破るという目覚ましい活躍を見せました。道真は上野阿内城（群馬県前橋市）にあって顕定、定正を補佐しました。

道灌と顕定、定正は合流に成功し、用土原の戦いで大勝し景春を封じ込めることに成功しましたが、古河公方が本格的に参戦したため、乱は長期化の様相を呈しました。文明10年（1478年）道灌と道真は顕定の反対を押し切り、定正を河越城に帰還させ、道真も河越城に入りました。景春が河越城へ攻め寄せましたが、定正と道真はこれを撃退しました。

長年の戦いに疲弊した古河公方は和議を望みましたが、景春はなおも戦いを続けようとしました。道灌は景春方を次々と打ち破り、文明12年（1480年）までにほぼ乱の平定に成功しました。

文明14年（1482年）、古河公方と両上杉家との間で和議が成立し、ここに享徳の乱は終結しました。

晩年

この戦いによって、扇谷家の勢力は大きく高まりました。特に乱を平定した道灌の名声は、主君である顕定、定正を凌ぐほどとなりました。これは顕定、定正にとって危険な兆候でした。家中には道灌が謀反を企てていると中傷する者も現れ、定正も道灌を疑うようになりましたが、道真・道灌父子は何ら弁明することはありませんでした。

高齢となった道真は隠居し、自得軒（埼玉県越生町）に閑居するようになりました。文明18年（1486年）6月、道灌は詩人の万里集九を伴い道真の隠居所を訪ね、詩会を楽しみました。しかし、そのわずか1ヶ月後の7月18日、定正の居館である糟屋館（神奈川県伊勢原市）に招かれた道灌は、突如暗殺されてしまいました。死に際に「当方滅亡」と言い残したと伝えられています。

道真はその2年後の長享2年（1488年）8月3日に越生で死去しました。法名は自得院殿実慶道真庵主。墓所は越生の龍穏寺にあります。「太田家記」などには明応元年（1492年）に死去したとありますが、より信頼性の高い「本土寺過去帳」によれば、これは誤りであると考えられています（黒田基樹駒澤大学非常勤講師の説による）。

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