蹇々録

蹇々録（けんけんろく）

『蹇々録』は、明治時代の外務大臣である陸奥宗光が執筆した重要な外交記録です。この作品は1895年に完成し、1929年に初めて公開されました。陸奥自身が1892年以降に執筆したものであり、外務省の機密情報を多く引用しているため、長い間非公開とされていました。明治外交史において非常に価値のある第一級の史料として位置づけられています。

内容の概要

本書では、1894年に朝鮮で発生した甲午農民戦争から1895年の三国干渉にかけて、陸奥宗光の外交経験や苦労、考察が詳細に述べられています。例えば、日清戦争の開戦について、内村鑑三は中国の不公正な支配への反対を義戦として位置付け、日本の世論もこれを支持していたとされます。しかし、陸奥は『蹇々録』において、この戦争が日本の国益のために行われたものであり、義侠の精神は存在しなかったと率直に記しています。

日朝関係については、三つの期間に分けて詳述されており、第一の期間では日清戦争までの動向、第二の期間では井上馨による韓国改革の背景、そして第三の期間では日清講和条約の締結に至る経過が詳しく述べられています。特に、三国干渉に関する記述では、陸奥は「畢竟我に在ては其進むべき地に進み其止まらざるを得ざる所に止まりたるものなり。」と述べており、この言葉は後の外交交渉にも影響を与えました。この表現は、第二次世界大戦後に沖縄返還交渉に関わった若泉敬の著書『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』のタイトルにも使用されています。

出典と解釈

本書の表題は、『易経』に含まれる蹇卦の「蹇蹇匪躬」に由来しています。これは「王臣蹇蹇、躬の故に匪あらず」と読み下すことができ、君主に対する忠誠心を示すことを意味しています。

さらに、陸奥の親族である外交官・評論家の岡崎久彦の著書『明治の外交力　陸奥宗光の『蹇蹇録』に学ぶ』も考察に値します。これは、陸奥の外交姿勢やその影響について深く考察した作品です。

参考文献

本作に関連する重要な文献には、以下のようなものがあります：

• - 中塚明による『蹇蹇録の世界』みすず書房、1992年（新版は2006年）
• - 『蹇蹇録』中塚明校訂・解説、岩波文庫、1983年（ワイド版は2005年）
• - 中公クラシックスからの2015年版『蹇蹇録』、解説は千葉功によるもの
• - 旧版は萩原延壽による『日本の名著（35） 陸奥宗光』として1973年に発行されています。

結論

『蹇々録』は、陸奥宗光の鋭い洞察と真実に迫る姿勢が随所に表れた作品であり、当時の日本外交の実態を知るための貴重な資料と言えるでしょう。

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