軍事海上輸送司令部

軍事海上輸送司令部（MSC）

アメリカ海軍に属する軍事海上輸送司令部（Military Sealift Command, 略称: MSC）は、アメリカ軍全体の海上ロジスティクスを担う重要な組織です。この司令部は、部隊の管理面においてはアメリカ艦隊総軍（USFLTFORCOM）の指揮を受けますが、実際の作戦遂行に関してはアメリカ輸送軍（USTRANSCOM）の統制下に置かれています。司令部機能は、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.にあるネイビーヤードに設置されています。

主要任務

MSCが担う主要な任務は非常に多岐にわたり、世界中に展開する米軍部隊の活動を持続的に支えるために不可欠な役割を果たしています。その任務内容は、主に以下の五つの分野に分類されます。

補給

海上で活動する海軍艦艇に対し、作戦を継続するために必要な弾薬、燃料、食料、その他の物資を海上経由で供給します。特に、航行中の艦艇に対する洋上での直接補給（洋上補給）は、部隊の展開能力を維持する上で極めて重要であり、MSCは専用の補給艦を多数運用してこの任務にあたっています。

特殊任務

一般的な輸送や補給とは異なる、高度な技術や専門知識を要する特定の任務も実行します。これには、他国が開発・実験するミサイルの軌道追跡、不審な艦艇の音響特性（音響スペクトル）の収集による情報活動、あるいは作戦海域における海水温、塩分濃度、水深、海底地形といった海洋環境の詳細な観測や調査などが含まれます。これらの任務遂行のため、ミサイル追跡艦、音響測定艦、海洋観測艦、測量艦といった特殊な機能を持つ艦艇を運用しています。

事前集積

将来的な軍事紛争や緊急事態に迅速に対応するため、必要な装備や弾薬などを紛争が予測される地域に近い海域に事前に輸送・備蓄しておく任務です。海兵隊、陸軍、海軍、空軍といった各軍種が必要とする軍事物資を積載した事前集積艦を、世界各地の戦略的な海域に常時展開させています。この目的のために、民間の大型RO-RO船（車両運搬船）などを改造した輸送艦が事前集積船として利用されています。

後方支援

広範な範囲にわたる後方支援活動もMSCの重要な役割です。海難事故に際して人命や船舶を救助する救難艦、遭難した潜水艦の乗員救助や支援を行う潜水艦救難艦、大規模な災害や紛争地域での医療支援にあたる病院船、さらには海底通信ケーブルの敷設・維持を担うケーブル敷設艦など、多様な支援艦艇を運用し、米軍および関連機関の活動を海上から支えています。

海上輸送

多数の拠点間における大量の物資、装備、人員の輸送を行います。通常の輸送艦に加え、タンカーによる燃料の大規模輸送、あるいは高速輸送艦を用いた緊急性の高い物資の迅速な配送など、輸送する対象や状況に応じて様々な種類の艦艇を使い分け、効率的かつ確実な海上輸送ネットワークを維持しています。

編制

MSCに所属する艦艇は、特定の母港を持たず、遂行する任務の機能に基づいて五つの主要な区分に分類されています。これらの区分は、MSCが担う前述の主要任務と密接に関連しています。

戦闘兵站部隊（Combat Logistics Force）: 主に海軍艦艇への洋上補給任務を担います。
特殊任務計画（Special Mission Program）: 特殊任務に使用される艦艇群です。
海上事前集積計画（Maritime Prepositioning Program）: 事前集積任務のための艦艇を運用します。この計画の下には、特定の地域を担当する事前集積船隊（MPSRON-2, MPSRON-3）や、陸軍（APS-3）、海軍、国防兵站局、空軍（NDAF）向けの事前備蓄を行う部隊が含まれ、合計で約26隻の艦艇（大型中速車両輸送艦、コンテナ輸送艦など）が運用されています。
後方支援計画（Service Support Program）: 後方支援任務にあたる艦艇群です。
海上輸送計画（Sealift Program）: 拠点間の海上輸送を行う艦艇群です。

また、MSCはその広範な活動範囲に対応するため、地理的な担当区域に基づき世界を五つの地域に区分し、それぞれに地域別司令部を設置しています。これらの地域別司令部は、多くの場合、担当海域の米海軍艦隊における特定の任務部隊司令官が兼務しています。

軍事海上輸送司令部・太平洋（MSCPAC）: 太平洋地域を担当し、カリフォルニア州サンディエゴに所在。第3艦隊第33任務部隊司令部が兼務。
軍事海上輸送司令部・極東（MSCFE）: 極東地域を担当し、シンガポールのセンバワンに所在。第7艦隊第73任務部隊司令部が兼務。
軍事海上輸送司令部・大西洋（MSCLANT）: 大西洋地域を担当し、バージニア州ノーフォークに所在。
軍事海上輸送司令部・ヨーロッパ／アフリカ（MSCEURAF）: ヨーロッパおよびアフリカ地域を担当し、イタリアのナポリに所在。第6艦隊第63任務部隊司令部が兼務。
軍事海上輸送司令部・中央（MSCCENT）: 中央地域（中東など）を担当し、バーレーンのマナマに所在。第5艦隊第53任務部隊司令部が兼務。

これらの機能別および地域別の編制を通じて、MSCはアメリカ軍のグローバルな展開と持続的な活動を、海上からの強固なロジスティクス支援によって支えています。

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