軽井沢聖パウロカトリック教会

長野県北佐久郡軽井沢町に佇む軽井沢聖パウロカトリック教会は、カトリック教会とその聖堂です。1935年（昭和10年）に英国出身のワード神父（Fr. Leo Paul Ward）によって創建されました。建物の設計は、米国建築学会賞を受賞した高名な建築家アントニン・レーモンドが手掛け、軽井沢を代表する歴史的建造物の一つとして知られています。カトリック横浜司教区内では「カトリック軽井沢教会」と呼ばれています。

教会の建築は、峻厳な傾斜を持つ印象的な三角屋根、天を突くような大きな尖塔、そして打ち放しのコンクリート壁が独特な外観を形成しています。内部空間は、構造材である木材がそのまま現しになったエックス型のトラス構造が特徴的で、素朴でありながらも力強い美しさを感じさせます。近代建築の保存活動を行うDOCOMOMO Japanにより、「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」として2003年に選定されており、その建築史的な価値が認められています。

この教会は、多くの文学作品の舞台としても登場しています。作家の堀辰雄は、1940年に発表した随筆「木の十字架」の中で、この教会への深い思いを綴っています。随筆には、この教会が「簡素な木造建築で、どこかスイスの小さな村にあるような、素朴ながらも美しい、心惹かれる建物」であると述べられています。また、フランスの作家フランソワ・モーリアックの小説「焔の流れ」に登場する教会と重ね合わせたり、ここで結婚すると多くの人々に祝福されるだろうと想像したりしています。さらに、第二次世界大戦中のポーランド侵攻の翌日、故国を案じるポーランド人少女が礼拝していた情景を描写するなど、激動の時代における人々の心の拠り所としての教会の姿が描かれています。堀辰雄の代表作「風立ちぬ」のほか、川端康成の「掌の小説」、遠藤周作の『薔薇の館』といった名だたる文学作品にも登場しており、多くの文豪たちがこの教会に魅せられたことがうかがえます。

教会の設立には、英国出身のワード神父が深く関わっています。彼は建築家レーモンドの招きで初めて軽井沢を訪れ、当初は軽井沢ホテルのラウンジでミサを行っていました。ところが、外国人外交官やビジネスマン、テニス選手など、軽井沢に滞在する人々の間でミサの参加者が予想以上に増え、夏期のみの礼拝堂建設を決意しました。最初の主日の参加者は8名でしたが、回を重ねるごとに増え、最終的には68名に達したことにワード神父は驚き、建設へと踏み切ったのです。ワード神父は軽井沢ホテルに滞在しながら建設を進め、日光東照宮の造営に携わったという宮大工を呼び寄せ、約半年をかけて聖堂を完成させたと伝えられています。後の著名な家具デザイナー、ジョージ・ナカシマも設計や家具製作に関わりました。建設費用の大半はワード神父が負担しましたが、軽井沢ホテルは彼の滞在費を請求しなかったという心温まる逸話も残っています。

軽井沢聖パウロカトリック教会は、現代日本におけるキリスト教式結婚式が広く普及する上で、画期的な役割を果たした教会としても知られています。教会は、社会の中で薄れがちな人々の絆を再認識させるため、「開かれたキリスト教」の実践を試み、その一環として非信者に対する結婚式という新たな道を開きました。1960年代からは一般に教会を開放し始め、これにより多くの有名人が挙式を行うようになります。特に大きな注目を集めたのは、1972年の俳優・西郷輝彦氏と辺見マリ氏の結婚式でした。この挙式がテレビで全国に中継されたことにより、軽井沢での結婚式が大きくクローズアップされ、ブームの火付け役となったのです。同時期には、芥川也寸志氏や林隆三氏、森山加代子氏、吉田拓郎氏・四角佳子氏といった著名人もこの教会で祝福を受けています。軽井沢聖パウロカトリック教会での成功事例を皮切りに、日本各地の教会で、宗派や信仰の有無を問わず、「結婚講座」を受けることで誰でも結婚式を挙げられるというスタイルが広まり、キリスト教式結婚式が急速に普及していきました。

このように、軽井沢聖パウロカトリック教会は、その優れた建築美、文学作品を通じた文化的影響、そして現代日本の結婚文化に与えた影響など、多角的な側面を持つ、軽井沢の地に根ざした特別な場所と言えるでしょう。軽井沢駅からは徒歩約20分でアクセス可能です。

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