辞 (文体)

辞（じ）とは

辞とは、古代中国における韻文の文体の一つです。春秋戦国時代、南方の楚地方の巫祝（ふしゅく）の音楽に起源を持つとされ、独特の形式と豊かな抒情性を特徴とします。

辞の特徴

形式: 一句は三言・六言を基調としますが、不定形で流動的です。句間や句末に「兮」などの助字が置かれるのが大きな特徴です。
内容: 悲歌慷慨の文学ともいうべき豊かな抒情性を持ちます。

辞の歴史

辞は、口頭で伝えられる実用文書と、楚から発生した歌の様式という2つのジャンルを含んでいます。

視覚的な美しさを追求する賦に対して、辞は楚の訛りを含む独特の音調を持っていました。

前漢には楚調の音楽が流行し、楚出身の歌い手が宮廷で重用されました。

漢から六朝にかけて、「辞」と題する作品は多くありませんが、騒体賦（そうたいふ）と呼ばれる辞の影響を受けた作品が作られました。賈誼（かぎ）の「弔屈原賦」や司馬遷の「悲士不遇賦」などがその例です。

武帝の時代、『楚辞』を好んだ淮南王劉安のもとには多くの文人が集まり、辞賦を作りました。

辞系の賦は、その起源からして反体制的な色彩を帯びていましたが、儒教支配体制の高まりとともに衰退に向かいます。しかし、前漢末から後漢初頭の混乱期になると、再び抒情賦が流行しました。

後漢の賦は、形式的には辞の系譜を引きながら、主題としては個人的な悲愁や不満、退隠の志などを歌うようになります。

ジャンルとしての辞は、賦の中に吸収され、後漢から六朝期にかけての文芸集に「辞」を論ずるものはありません。

梁の『文選』に「辞」という分類が立てられたことによって、この文体が一応の形で後世に伝わることとなりました。

朱熹の『楚辞後語』は、『楚辞』的な抒情作品を集めたもので、辞系文学の集成と言うことができます。

辞の形式

一句は三言・六言を基調としますが、不定形で流動的です。句間や句末に「兮」などの助字が置かれるのが大きな特徴です。

押韻は句末もしくは助字の前で行われ、多く換韻を伴います。

長い作品では、初めに「序」、終わりには「乱」などの短い一段が添えられます。

辞の例

六句の場合、四字目に「而」や「以」などが挟まれることがあります。

関連項目

賦
楚辞

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