近代公娼制

近代公娼制の成立と影響

近代公娼制は、欧米諸国において18世紀に確立され、性病の予防を目的として公共の売春を認める制度として導入されました。この制度の背景には、当時の社会における売春の普及と、私生児の増加があり、1734年には医師バーナード・デ・マンデヴィルによって『公営売春宿擁護論』が発表されました。彼は、公認の売春宿を設けることで、自由売春や私的売春による病気の害を解消できると主張しました。この考えは、後の近代公娼制度の基礎を築くことになりました。

ヨーロッパにおける近代公娼制

産業革命以降、ヨーロッパ各国では娼婦登録制が導入され、1795年のベルリンでは257人、1820年のパリでは2800人の娼婦が登録されました。しかし、その数に対し非登録の私娼は多く、1843年の調査ではロンドンに9万人、パリに3万人、ベルリンには1万人の娼婦がいるとされていました。1860年にはロンドンで30万人の娼婦がいるという報告もあります。

フランス政府により確立されたこの制度は、藤目ゆきによって「軍隊慰安と性病管理を機軸とした国家管理売春の体系」と定義されています。ナポレオン軍が性病問題に悩まされたことが、公娼制度導入の大きなきっかけとなりました。1860年のロンドンでは、軍の持つ医療体制が性病の拡散を防ぐ役割を果たしていたのです。近代公娼制度がフランスに続いて他のヨーロッパ諸国や日本に影響を与えたことは特筆に値します。

日本における公娼制度の導入

日本においては、明治時代の公娼制度が近代ヨーロッパの制度をモデルに再編成されました。1872年のマリア・ルス号事件を契機に、政府は芸娼妓解放令や人身売買禁止令を出しましたが、遊郭は依然として存在しました。この制度は、遊郭業者に許可制を与え、従業員には条件を設けることで、法的な枠組みを持ちながらも実態は複雑でした。

明治時代以降は公娼制が確立し、娼妓の年齢を18歳以上と定め、育成・管理を行う仕組みが整えられました。1904年には欧州での国際協定が締結され、1910年には婦女売買禁止に関する国際条約が生まれました。日本もこの国際的な動きに参加する形で、公娼制度の見直しが進められました。

公娼制の廃止とその影響

日本における公娼制度の廃止は、1946年のGHQによる指導が大きな要因となりました。その後、1956年の売春防止法の制定によって、法律的にアンダーグラウンド化した売春が全面的に禁止されました。このように、公娼制度は近代以降、性病予防や社会問題への臨時対応として存在し続けましたが、次第にその必要性や正当性が問われるようになり、最終的には法律によって廃止されることになったのです。

結論

近代公娼制度は、性に関する社会的な規範やニーズを反映する一方で、様々な社会的・法的な問題を引き起こしました。本制度の成立から廃止に至るまでの過程は、国家の管理、医療、社会倫理の関係を考える上で重要な歴史的事例として位置づけられています。理解を深めることは、現在の性に関連する制度や文化を考える上でも意義深い意義を持ちます。

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