近藤重蔵

近藤重蔵：探検家、博識家、そして波乱の生涯

近藤重蔵（こんどうじゅうぞう、1771年-1829年）は、江戸時代後期の幕臣にして、5度に渡る蝦夷地探検で名を馳せた探検家です。間宮林蔵、平山行蔵とともに「文政の三蔵」と称され、蝦夷地開発や対外政策に多大な影響を与えました。 優れた学識を持ち、膨大な著作を残した書誌学者としての顔も持ち合わせています。その生涯は、探検の功績、学問への探求、そして数々の波瀾に満ちたものでした。

幼少期から幕臣へ

1771年、江戸駒込で御先手組与力の三男として生まれた重蔵は、幼少期から並外れた才能を示しました。8歳で四書五経を暗記し、「神童」と呼ばれた彼は、17歳で私塾「白山義学」を開くほどでした。生涯で60種以上、1500巻もの著作を残すほどの博識ぶりは、儒学者山本北山に師事した経験も大きく影響しています。

父の隠居後、家督を相続した重蔵は御先手組与力として幕府に仕え、火付盗賊改方も兼任しました。聖堂学問所（後の昌平坂学問所）の学問吟味にも合格し、その優秀さを認められています。長崎奉行手付出役として赴任した際には、『清俗紀聞』『安南紀略』『紅毛書』などを著し、異文化への関心の高さを示しています。

蝦夷地探検と幕府への建言

イギリス船プロヴィデンス号の蝦夷地来航をきっかけに、重蔵は蝦夷地の重要性を深く認識しました。1796年のブロートン号来航事件を受け、最上徳内とともに蝦夷地調査に携わることになります。そして、1798年には松前蝦夷地御用取扱となり、4度にわたり蝦夷地を踏査しました。

重蔵は、日本を取り巻く国際情勢を分析し、海防強化の必要性を幕府に訴えました。特に蝦夷地の無防備さを指摘し、幕府直轄化（上知）を強く主張しました。この建言は、後の蝦夷地幕領化政策に大きな影響を与えたと言われています。

択捉島探検では、南端のタンネモイに「大日本恵登呂府」の標柱を建立。これは、日本の領有を明確に示すものでした。この探検では、すでにロシア人が得撫島に入植していることを確認し、その状況を危惧する報告も行っています。また、探検の帰路、広尾で悪天候により足止めになり、日高海岸の道路状況の悪さに気づき、私費を投じて道路を開削しました。この「ルベシベツ山道」は、北海道における道路建設の始まりとなりました。

択捉島の開発とアイヌ政策

1799年、重蔵は商人高田屋嘉兵衛に協力を仰ぎ、国後・択捉間の航路を開設、択捉島と得撫島の開発を推進しました。アイヌの人々に物品を供給し、漁場を開設するなど、積極的な開発政策を実施しました。また、会所の開設、人別帳の作成、郷村制の施行などを行い、択捉島の内国化、アイヌの和風化政策を進めました。しかし、重蔵のアイヌ民族観は、完全に同化を志向するものではなく、あくまでも幕藩体制下での支配を前提としたものであったと考えられます。

蝦夷地奉行からの転身と晩年

1803年には蝦夷地関係の役職を離れ、小普請方へ転じます。しかし、ロシアや清の動向への懸念から、樺太上知論を献策するなど、北方問題への関与はその後も継続しました。1807年のフヴォストフ事件（文化露寇）では再び松前奉行出役となり、5度目の蝦夷地探検を行いました。この探検では利尻島や宗谷、石狩川筋を調査し、札幌周辺に着目しました。

1808年には、江戸城紅葉山文庫の書物奉行に就任。その博識を生かし、幕府の外交文書の編纂や、多くの著作を残しました。『外蛮通書』は特に有名で、1599年から宝暦年間までの幕府と諸外国の外交文書を網羅した大著です。書物奉行としての仕事ぶりは、図書趣味の強かった重蔵にとって「ハマり役」だったと評されています。

その後、大坂勤番御弓奉行に左遷されたのち、滝ノ川村に閉居。長男の事件により、近江国大溝藩に預けられ、1829年に同地で没しました。

近藤重蔵の遺産

近藤重蔵は、探検家、博識家、そして幕臣として、多様な才能を発揮した人物でした。蝦夷地探検の功績は、日本の北方領土問題を考える上で重要な史料となっています。また、彼の膨大な著作は、書誌学や歴史研究に貴重な情報を提供しています。豪放磊落な性格ゆえに、波乱に満ちた生涯を送りましたが、その功績は現代においても高く評価されています。彼の残した記録や著作は、今もなお、研究者や歴史愛好家にとって貴重な資料となっています。 そして、彼の蝦夷地探検は、後の北海道開発にも大きな影響を与えたことは間違いありません。

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