近鉄6800系電車

近鉄6800系電車：南大阪線の「ラビットカー」

近鉄6800系電車は、1957年9月に近畿日本鉄道南大阪線に登場した通勤形電車です。1949年以来8年ぶりの新形式車両であり、南大阪線初の高性能通勤車、そして日本初の高加減速車両として注目を集めました。

概要

6800系は、1954年に試作されたモ1450形、1955年の800系の技術を南大阪線向けに発展させた車両です。各駅停車用として開発されましたが、その俊足ぶりから「ラビットカー」という愛称で親しまれました。旧型車による急行・準急の合間を縫って走行する姿が、ウサギを連想させたことが由来とされています。

車両構成

モ6800形は2両1編成で、大阪阿部野橋寄りにモ6800形偶数車、反対側に奇数車を連結したMMユニット方式を採用。起動加速度4.0km/h/s、減速度4.5km/h/sという優れた加減速性能を実現しました。当初は6800系または6900系とのみ連結可能でしたが、1969年に減速度を4.0km/h/sに調整し、他のカルダン駆動車との連結も可能になりました。

増結用として製造されたモ6850形は、1M方式の単行車両です。パンタグラフの位置は車両によって異なり、6851 - 6854は連結面寄り、6855 - 6858は運転台寄りに設置されました。

車体

6800系の最大の特徴は、20m級両開き4扉の車体です。幅1300mmの両開き扉と、2個1組の大型サッシュレス下降窓を採用し、従来の車両と比較して収容力と乗降性が向上しました。この車体構造は、その後の近鉄通勤車の基本デザインとして長く採用されることになります。

1次車は前照灯の間隔が980mmと狭く、後の車両とは印象が異なります。これは、当初計画されていた前照灯1灯の設計から変更されたためです。また、屋根上のベンチレーターも、1次車では蒲鉾型とガーランド型の2種類が設置されていましたが、2次車以降は蒲鉾型のみとなりました。

車内の化粧板は、関西私鉄標準の薄茶色で、無塗製材（メラミン化粧板）を使用し、保守の省力化を図っています。吊り革は4列配置され、中央の2列は跳ね上げ式を採用しました。

塗装

落成当初はオレンジバーミリオンに白帯という明るい塗装で、側面にはステンレス製のラビットマークが取り付けられていました。しかし、1968年以降はマルーンレッド一色に変更され、ラビットマークも撤去されました。

機器類

主電動機には、三菱電機製のMB-3032S（75kW）を採用。WN駆動方式も近鉄で初めて採用されました。このモーターは、当時の最新機種であり、小田急2220形や長野電鉄2000系などにも採用されていました。

6800系は、大阪阿部野橋 - 矢田間の輸送力増強を目的に製造され、急行と各駅停車が同一時間で運転できる性能を備えていました。そのため、朝ラッシュ時にはモーターに過負荷をかけ、高い起動加速度を確保する一方、下り列車ではモーターを冷却するという運用上の工夫が凝らされていました。

制御装置は、三菱電機製の電動カム軸式ABF-108-15MDHを採用。集電装置は三菱電機製のS-524-A、補助電源装置は三菱電機製のMG-57B-Sです。制動装置は三菱製のHSC電磁直通ブレーキですが、抑速制動は搭載されていません。台車は近畿車輛製のシュリーレン台車KD-23です。

運用の変遷

6800系は、当初は各駅停車用として製造されましたが、南大阪線、長野線、御所線の急行・準急にも使用されました。1969年頃からは、増結用車両としての役割が増え、6000系列の編成に連結されることが多くなりました。また、道明寺線でも運用されることがありました。

1969年までは吉野線への入線はできませんでしたが、減速度の調整と抵抗器の容量増加により、吉野線への入線も可能になりました。

改造・廃車

1968年からは、塗装工程簡略化のためマルーン一色となり、ラビットマークも撤去されました。1987年には、モ6851がデビュー30周年を記念して元の塗装に戻され、団体専用列車として運転されました。

1989年には、6855 - 6858の4両に冷房改造が施され、長野線などで使用されました。冷房電源は、併結する編成から供給する方式が採用されました。

廃車は1983年から始まり、1993年に6855 - 6858が養老鉄道に転出し、形式消滅しました。モ6851は廃車後、古市検車区内の入換車として使用されました。

2009年には、養老鉄道でラビットカー塗装が復活し、話題となりました。

6800系は、南大阪線の発展に大きく貢献した車両であり、その愛らしい姿は今も多くの人々の記憶に残っています。

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