連綿

連綿（れんめん）

「連綿」とは、物事が途切れることなく、長く連続して続く様子を表す言葉です。例えば、山並みが連なる景色や、川の流れが延々と続く様などを表現する際に用いられます。

また、書道においては、特別な技法を指す言葉としても使われます。具体的には、前の文字の最終画と次の文字の起筆とを筆を離さずに続けて書く技法のことです。この技法によって書かれた書体を「連綿体（れんめんたい）」と呼びます。特に多くの文字を連続して一筆のように書き連ねたものは「連綿草（れんめんそう）」と称されることもあります。連綿体は、文字と文字の間につながりを持たせることで、作品全体に一体感とリズム感、そして流れるような動きや豊かな情感を与えることができます。

歴史的背景

「連綿」という言葉が文献に初めて現れるのは、中国の南北朝時代、梁の袁昂（えんこう）が著した書論書『古今書評（ここんしょひょう）』です。この書の中で、当時の書家であった蕭思話（しょうしば）の書について「走墨連綿（そうぼくれんめん）」と評されており、筆の運びが墨の流れに乗って途切れることなく続いている様子が表現されています。

また、唐代の張懐璀（ちょうかいさい）が著した書論書『書断（しょだん）』には、「書聖」と称される後漢時代の書家・張芝（ちょうし）の書が「谷川のそのまま際限なく流れる」ようだと評された記述があり、これもまた書における連綿の精神、つまり途切れず流れるような筆勢の重要性を示唆しています。

文学作品においても、この言葉や概念は古くから用いられてきました。例えば、東晋時代の詩人、謝霊運（しゃれいうん）の詩『過始寧墅（かしねいじょ）』には、連なる渚（なぎさ）の風景を描写する際に「連綿」が使われています。さらに、盛唐の詩人、李白（りはく）の「白毫子歌（はくごうしか）」にも、小山が連続して連なる景象を表す言葉として見られます。これらの例は、「連綿」が単に書道技法だけでなく、自然の連続性や広がりを示す言葉としても広く認識されていたことを示しています。

書写における連綿の技法は、特に流れるような筆運びが特徴の草書体において発達しました。複数の文字を一気に書き連ねるその様から、「連綿書（れんめんしょ）」や「一筆書（いっぴつがき）」とも呼ばれました。

日本における連綿

日本においては、平安時代（9世紀頃）から書道において連綿の技法が見られるようになりました。中国から伝わった漢字草書の影響を受けつつ、特に日本の仮名書道において独自の発展を遂げます。

弘法大師として知られる空海の書物の中にも、連綿の技法を用いた作品が現存しており、彼の漢詩文集である『性霊集（しょうりょうしゅう）』にも「連綿」という言葉が使用されている例が確認されています。平安時代以降、かな書道においては、文字の連なりが生み出す柔らかな線と優美な流れが重視され、連綿は表現の重要な要素となりました。字と字をつなぐ線の太さや速さ、角度などが、作品に独特の情感やリズムを与え、日本の書道文化、特にかなの美意識を形成する上で欠かせない技法となっていきます。

その他の用法

「連綿」は、物理的な連続や書道の技法だけでなく、抽象的な概念の持続にも用いられることがあります。最もよく知られている例としては、天皇や皇帝の血筋が途絶えることなく代々受け継がれていく様子を指す「皇統連綿（こうとうれんめん）」という四字熟語があります。これは、特定の系統や伝統が長く続いていくことの比喩として使われる表現です。

このように、「連綿」は、物理的な連続性、書道の高度な技法、そして歴史や血統といった抽象的な概念の持続といった多岐にわたる意味合いを持つ言葉であり、古くから文学や書道、歴史の中で重要な役割を果たしてきました。

関連項目

* 連綿語

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