謝霊運

謝霊運：山水詩の祖、その生涯と文学

謝霊運（しゃれいうん、385年 - 433年）は、東晋から南朝宋にかけての時代を生きた詩人、そして文学者です。彼の作品は、自然、特に山水の美しさを詠んだものが多く、後世に「山水詩」というジャンルを確立した人物として知られています。

生い立ちと貴族社会

謝霊運は、名門貴族である謝氏の出身でした。祖父の謝玄は、淝水の戦いで前秦の大軍を打ち破った名将であり、彼の家柄は非常に高かったと言えます。父の早世により、祖父の爵位である康楽公を継承したため、謝康楽とも呼ばれました。同時代の詩人である謝朓（謝小）に対し、「大謝」と称され、族弟の謝恵連と合わせて「三謝」とも呼ばれています。

聡明で多才でしたが、性格は傲慢であったと伝えられています。その出自の高さゆえに、周囲との軋轢も生じやすく、波乱に満ちた生涯を送ることになります。

政争と隠遁生活

20歳で官界に入りましたが、東晋が滅亡し南朝宋が成立すると、爵位を降格されます。少帝の時代には政争に巻き込まれ、地方官に左遷されましたが、すぐに辞職し、故郷に戻り自然の中で隠遁生活を送ります。この時期に多くの山水詩を創作し、その才能を開花させました。

朝廷への復帰と再びの隠遁

文帝の即位後、朝廷に呼び戻され要職に就きますが、自身の才能が十分に評価されていないと感じ、再び故郷に戻ります。その後も自然の中で過ごしますが、地方官との衝突から罪に問われ、最終的には処刑されるという悲劇的な結末を迎えます。

文学的な功績

謝霊運の作品は、『文選』にも多く収録されており、彼の代表作である「登池上樓」「石壁精舎還湖中作」「於南山往北山経湖中瞻眺」などが含まれています。これらの詩は、自然の美しさを繊細な感覚で捉え、情感豊かに表現したもので、後世の詩人たちに大きな影響を与えました。

仏教との関わり

謝霊運は仏教にも深く帰依していました。廬山の慧遠を訪ねたことをきっかけに仏教の研究に没頭し、経典の編纂にも携わっています。特に、『大般涅槃経』の完成に貢献したことは特筆に値します。また、『金剛般若経』の注釈書も著しており、仏教思想への深い理解を示しています。しかし、その傲慢な性格から、仏教者としての評価は必ずしも高くはありません。

評価と影響

謝霊運は、山水詩の創始者として、中国文学史における重要な位置を占めています。彼の作品は、自然を愛し、自然の中に自己を見出そうとする姿勢が強く表れており、多くの人々に共感を与えてきました。また、彼の波乱に満ちた生涯は、多くの文学作品や伝記の題材となっています。

参考文献

『宋書』巻67 列伝第27
『六朝詩人傳』興膳宏編（大修館書店、2000年）
森野繁夫『謝霊運論集』 白帝社、2007年
蒋義喬編『六朝文化と日本　謝霊運という視座から』 勉誠出版「アジア遊学」、2019年

外部リンク

* 『謝霊運』 - コトバンク

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