運動星団

運動星団（うんどうせいだん）とは

運動星団（英語: moving group）は、天文学における恒星の分類の一つで、共通の起源を持つ恒星たちの集団を指します。通常の星団、例えば散開星団や球状星団が望遠鏡で見ると空間的に密集した塊として観測されるのに対し、運動星団は私たちの視野の中で物理的なまとまりとして見えるわけではありません。その存在は、個々の恒星を詳しく調べ、それらが持つ様々な性質、特に空間的な運動（固有運動と視線速度を合わせた三次元的な運動ベクトル）、推定される年齢、そして構成元素の比率（化学組成や金属量）に共通性を見出すことで初めて認識されます。

形成と進化の過程

銀河円盤内で生まれる「種族I」と呼ばれるタイプの恒星のほとんどは、巨大な分子雲と呼ばれる低温高密度のガスと塵の集まりの中で誕生します。同じ分子雲内の比較的近い領域でほぼ同時期に形成された恒星たちは、通常、数十から数千個のまとまりとして散開星団を形成します。生まれたばかりの散開星団は比較的コンパクトですが、時間とともに銀河全体の重力による潮汐力や、星団内の恒星同士の相互作用によって、その結束は徐々に弱まり、恒星たちはバラバラになっていきます。

散開星団の中心部から離れ離れになった恒星たちは、かつての仲間として、ある程度の期間は共通の運動パターンを維持することがあります。星団のコアから分離した、比較的ゆるやかな集団は「アソシエーション（星群落）」と呼ばれることもあります。さらに時間経過を経て、かつての散開星団を構成していた恒星たちが、銀河内の他の無関係な恒星たちと混じり合いながらも、共通する運動ベクトルや物理的性質を保ったまま広い範囲に散らばり、一つのまとまりとして銀河内を移動している状態が、運動星団として捉えられるのです。

特徴と識別

運動星団に属する恒星は、同じガス雲内の近い場所でほぼ同じ時期に生まれたため、たとえ現在は大きく離れていても、いくつかの重要な共通点を持っています。これは、天文学者が特定の恒星が運動星団の一員であるかどうかを判断する上で非常に重要な手がかりとなります。

主な共通する性質は以下の通りです。

年齢: 同じ分子雲でほぼ同時に生まれたため、年齢が非常に近い。
化学組成（金属量）: 同じ分子雲の物質から形成されたため、恒星に含まれる重元素の比率（金属量）が類似している。
空間運動: 同じ起源を持ち、かつて一つのまとまりであったため、銀河内での運動の方向と速度（空間運動ベクトル）が共通している。

天文学者は、これらの共通する性質、特に精密な位置天文観測によって得られる固有運動データや、スペクトル観測から得られる視線速度、そして恒星の光から分析される化学組成などを総合的に分析することで、どの恒星が特定の運動星団に属するかを特定します。

研究の歴史と具体例

運動星団という概念は、1960年代に天文学者オリン・エッゲン（Olin Eggen）によって初めて提唱され、多くの研究が積み重ねられてきました。運動星団の年齢は様々で、例えばHR 1614運動星団のように約20億歳と比較的高齢のものもあれば、かじき座AB星（AB Doradus）運動星団のようにわずか約5000万歳と非常に若いものも存在します。

私たちに最も近い、若い運動星団の一つとしてよく知られているのが「おおぐま座運動星団」です。この運動星団は、夜空のおおぐま座を形作る北斗七星のほとんどの星々を含んでいますが、その範囲は広く、南半球のみなみのさんかく座にある一部の星々（これらはアソシエーションに属する）まで広がっています。おおぐま座運動星団に属する星々は、空の広い範囲に散らばっていますが、それらが共通の運動をしていることが、一つの起源を持つ集団であることを示しています。

運動星団の研究は、恒星がどのように誕生し、進化し、そして銀河の中でどのように散らばっていくのかを理解する上で重要な役割を果たしています。また、運動星団に属する恒星は、共通の年齢と組成を持つため、恒星進化理論の検証や、恒星までの距離を推定する際の基準としても利用されています。

関連する概念

散開星団: 数十から数千個の比較的若い恒星が空間的にまとまった集団。運動星団の起源となることが多い。
* アソシエーション（星群落）: 散開星団が分解する過程で見られる、運動星団よりもさらに若い、ゆるやかな恒星の集まり。運動星団の一部とみなされることもある。

これらの概念は互いに関連しており、恒星の誕生から銀河内での散り散りになるまでの進化を理解する上で重要な手がかりを提供しています。

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