運命の女神の歌

運命の女神の歌（Gesang der Parzen）作品89

概要

ドイツロマン派の巨匠ヨハネス・ブラームス（Johannes Brahms, 1833-1897）が手がけた合唱とオーケストラのための楽曲の一つ。作品番号は89番が付されており、ゲーテ（Johann Wolfgang von Goethe, 1749-1832）の戯曲『タウリス島のイフィゲーニエ』（Iphigenie auf Tauris）の中から引用された詩句をテキストとしています。単一楽章形式で構成されており、1882年に作曲が完了しました。

完成後、間もない同年12月10日にスイスの都市バーゼルにて世界初演が行われ、その楽譜は翌1883年に出版されました。この作品は、ブラームスが合唱という媒体に寄せた関心を示すものですが、彼の交響曲や協奏曲などと比べると、演奏される機会は比較的少ない部類に入ります。

編成

本作品は、六つの声部からなる混声合唱と大規模なオーケストラのために書かれています。混声合唱はソプラノ、アルトI、アルトII、テノール、バスI、バスIIという内訳で構成されており、声部の分割が特徴的です。

オーケストラは以下の通りです。

フルート 2本（うち1本はピッコロに持ち替え）
オーボエ 2本
クラリネット 2本（B管）
ファゴット 2本
コントラファゴット 1本
ホルン 4本（うち2本はD管、残りの2本はF管）
トランペット 2本
トロンボーン 3本（アルト、テノール、バス各1本）
チューバ 1本
ティンパニ
* 弦楽合奏（ヴァイオリンI, ヴァイオリンII, ヴィオラ, チェロ, コントラバス）

このような充実した管弦楽編成は、作品に重厚かつ深みのある響きをもたらしています。特に低音楽器の多用は、運命の厳しさや神秘性を表現する上で重要な役割を担っていると考えられます。

作品の特徴と受容

『運命の女神の歌』は、そのタイトルやゲーテの原作からも示唆される通り、人間の運命や神々の領域といった深遠なテーマを扱っています。音楽的にも、ブラームスらしい対位法的な書法や緻密な構成が見られます。

先に述べたように、演奏会で取り上げられる頻度はさほど高くありませんが、録音は複数存在しており、その全容を知ることができます。20世紀の著名な作曲家アントン・ヴェーベルン（Anton Webern, 1883-1945）が、この作品の終結部（コーダ）における音楽語法、特に長三和音が循環する独特なパッセージを高く評価したことは特筆に値します。これは、後の時代の作曲家にも示唆を与えるような先進的な側面が作品に含まれていることを示唆していると言えるでしょう。

全体として、この作品はブラームスの合唱曲の中でも特に大規模で、交響的な要素も強い作品であり、詩的な深さと音楽的な構造が見事に融合した独自の境地を示しています。

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