道 (ローマ帝国)

ローマ帝国の行政区画「道」：変遷と道長官の権限

「道」（どう、ラテン語: praefectura praetorio、ギリシア語: ἐπαρχότης τῶν πραιτωρίων）は、ローマ帝国後期に設けられた広域行政区画です。属州の上に位置し、道長官（プラエフェクトゥス・プラエトリオ）が統治しました。本記事では、道の成立から変遷、道長官の権限について解説します。

道の成立と変遷

道の創設は、コンスタンティヌス1世の時代に遡ります。4世紀後半にはほぼ最終的な形となり、7世紀に東ローマ帝国のヘラクレイオス帝による改革で権限が縮小、イスラム帝国の侵略によりテマ制が導入されるまで存続しました。道の行政機構は、東ローマ帝国の9世紀前半の文献にもその痕跡が見られます。

コンスタンティヌスの改革以前

道長官の職務は、ローマ帝国成立まで遡る長い歴史を持ちます。当初、道長官は親衛隊の指揮官でしたが、次第に皇帝の補佐官として行政・司法面で重要な役割を担うようになりました。コンスタンティヌス1世が318年または324年に道を制定したという説は、歴史家ゾシモスの記述に基づく誤解とされています。

テトラルキア体制下では、皇帝の権限を持つ者が4人に増えましたが、道長官は2人しか存在しなかったと考えられています。この頃、道長官の権限は絶大で、「大宰相の王にして皇帝の腹心」と評されるほどでした。ディオクレティアヌスの退位後、皇帝間で内戦が勃発すると、それぞれの皇帝が道長官を任命しました。

コンスタンティヌスの改革

コンスタンティヌス1世がリキニウスに勝利し帝国を統一すると、道長官の職務は大きく変化しました。歩兵長官や騎兵長官の創設により軍事的な要素が取り除かれ、行政長官の確立により、道長官と均衡する勢力が生まれました。これらの改革は、道長官の権限が強大になりすぎることを抑制する目的がありました。道長官は、帝国ヒエラルキーにおける最上級の地位を保持しつつも、純粋な民政官へと転換しました。

また、道長官の権限保持者が増員されたのも、テトラルキア体制からの変更点です。これは、コンスタンティヌスが自身の死後、皇帝権を息子たちに分割することを想定し、それぞれに統治する領土を与えたことと関連していると考えられます。

コンスタンティヌスの死後

337年のコンスタンティヌスの死後、帝国は3人の息子によって分割され、それぞれの皇帝が道長官を配下に置きました。この区分が、後に恒久化する道の最初の形となりました。

4道の確立以後

356年から357年にかけてイリュリクム道が分離され、5世紀初頭には『ノティティア・ディグニタトゥム』に記載される状況がほぼ確立しました。イリュリクム道の一時廃止や、パンノニア管区のイタリア道への移転など、いくつかの変更はありましたが、大きな変化はありませんでした。

各管区には管区代官が配置されましたが、ガリア管区とダキア管区は道長官の所在地だったため、代官は置かれませんでした。オリエンス管区には、例外的に総監が置かれました。

東西分裂後

5世紀、西ローマ帝国はゲルマン人の侵略を受けました。イタリア道は東ゴート王国が保有しましたが、東ゴート王テオドリックは征服したガリアの一部にガリア道を再建しました。東ローマ帝国はヴァンダル戦争を経てアフリカを奪回し、アフリカ道を設置しました。また、ゴート戦争に勝利した後、イタリア道を再建し、ラウェンナ総督府へと発展させました。

東ローマ帝国では、ウマイヤ朝の侵入やスラヴ人の侵入により領土を失い、7世紀半ばにテマ制が導入されるまで道は機能し続けました。ヘラクレイオスの改革により、道長官は財務部門の一部を奪われましたが、道のシステムは9世紀まで存続したという研究者もいます。

道長官の権限

道長官は、元老院議員が任命されるようになり、その威光と権限は高まりました。東西分裂後の帝国では、宮廷所在地であるオリエンス道とイタリア道の長官が上位に位置づけられました。

道長官は、道内の属州の行政機構に対し幅広い権限を持っていました。司法官としては皇帝の代わりに判決を下す権利を持ち、その判決は控訴できませんでした。道長官の担当分野は、行政・司法業務を監督するスコラ・エクスケルプトルムと、財務部門を監視するスクリニアリイの2つに分けられました。

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