オリエンス道

オリエンス道：東ローマ帝国の心臓部

オリエンス道（古典ラテン語：praefectura praetorio Orientis, ギリシア語: ἐπαρχότης τῶν πραιτωρίων τῆς ἀνατολῆς）は、ローマ帝国末期に帝国を分割した行政区の一つです。皇帝によって任命された道長官（プラエフェクトゥス・プラエトリオ）が統治し、東ローマ帝国の大部分を占め、その中心はコンスタンティノープルに置かれました。オリエンス道長官は、東ローマ帝国において皇帝に次ぐ実質的な権力者として、帝国運営の中枢を担いました。

構造と範囲

オリエンス道は、337年にコンスタンティヌス1世が崩御した後、帝国が息子たちに分割された際に確立されました。コンスタンティウス2世は、プラエフェクトゥス・プラエトリオを補佐官としてオリエンス道の統治を任されました。オリエンス道は、当初4つ、後に5つの管区を含み、各管区はさらに複数の属州で構成されていました。

その権限は広大で、トラキア管区（現在のバルカン半島東部）、アシア管区・ポントゥス管区（アナトリア半島）、オリエンス管区・アエギュプトゥス管区（中東）など、広範囲に及んでいました。この広大な領域を統治するため、道長官には絶大な権力が与えられていたのです。

歴代オリエンス道長官

以下に、オリエンス道の歴代長官の一部を年代順に示します。彼らは帝国の重要な局面で、政治、経済、軍事など多岐にわたる分野で影響力を行使しました。

4世紀

フラウィウス・アブラビウス (329年 - 337/338年)
セプティミウス・アキンデュヌス (338年 - 340年)
フラウィウス・ピリップス (344年 - 351年)
タラシウス (生年不明 - 354年)
ドミティアヌス (353年)
ストラテギウス・ムソニアヌス (354年 - 358年)
ヘルピディウス (360年 - 361年)
サトゥルニウス・セクンドゥス・サルティウス (361年 - 365年)
ネブリディウス (365年)
ドミティウス・モデストゥス (369年 - 377年)
アブルギウス (378年)
クィントゥス・クロディウス・ヘルモゲニアヌス・オリュブリウス (379年)
ネオテリウス (380年 - 381年)
フロルス (381年)
マテルヌス・キュネギウス (384年 - 388年)
フラウィウス・エウトルミウス・タティアヌス (388年 - 392年)
フラウィウス・ルフィヌス (392年 - 395年)
フラウィウス・カエサリウス (395年 - 397年, 400年 - 403年)
フラウィウス・エウテュキアヌス (397年 - 399年, 399年 - 400年)
アウレリアヌス (399年)

5世紀

フラウィウス・エウテュキアヌス (404年 - 405年)
アウレリアヌス (414年 - 416年)
フラウィウス・アンテミウス (405年 - 414年)
フラウィウス・モナクシウス (414年, 416年 - 420年)
フラウィウス・エウスタティウス (420年 - 422年)
フラウィウス・アスクレピオドトゥス (423年 - 425年)
アエティウス (425年)
フラウィウス・ヒエリウス (425年 - 428年, 432年)
フラウィウス・フロレンティウス (428年 - 430年, 438年 - 439年頃)
アンティオクス・クゾン (430年 - 431年)
ルフィヌス (431年 - 432年)
フラウィウス・タウルス (433年 - 434年, 445年)
フラウィウス・アンテミウス・イシドルス (435年 - 436年)
ダリウス (436年 - 437年)
フラウィウス・タウルス・セレウクス・キュルス (439年 - 441年)
トマス (442年)
アポロニウス (442年 - 443年)
ゾイルス (444年)
ヘルモクラテス (444年)
フラウィウス・コンスタンティヌス (447年頃, 456年, 459年)
アンティオクス・クゾン (448年)
フラウィウス・フロレンティウス・ロマヌス・ポトゲネス (448年 - 449年)
ホルミスダス (449年 - 450年)
パラディウス (450年 - 455年)
フラウィウス・ウィウィアヌス (459年 - 460年)
フラウィウス・イルストリウス・プサエウス (465年, 467年)
エリュトリウス (466年, 472年, 474年または491年)
アルマシウス (469年頃)
コンスタンティヌス (471年)
ディオスコルス (472年 - 475年, 489年)
エピニクス (475年)
ラウレンティウス (475年または476年)
セバスティアヌス (476年 - 480年, 484年)
ディオニュシウス (480年)
アエリアヌス (480年, 484年)
バシリウス (486年)
マトロニアヌス (491年)
ヒエリウス (494年 - 496年)
エウペミウス (496年)
テオドルス (497年)
ポリュカルプス (498年)

6世紀

アスパル・アリュピウス・コンスタンティヌス (502年, 505年)
アッピオン (503年)
レオンティウス (503年 - 504年, 510年)
エウスタティウス (505年 - 506年)
ゾティクス (511年 - 512年)
マリヌス (512年 - 515年, 519年)
セルギウス (517年)
デモステネス (520年 - 524年)
アルケラウス (524年 - 527年)
バシリデス (527年頃)
アトラビウス (528年頃)
ユリアヌス (530年 - 531年)
カッパドキアのヨハンネス (531年 - 532年, 533年 - 541年)
フォカス (533年)
フラウィウス・コミタス・テオドルス・バッスス (541年頃, 548年頃)
ペトルス・バルスメス (543年 - 546年, 555年 - 562年)
アッダエウス (551年頃)
ヘパエストゥス (551年 - 552年)
アレオビンドゥス (553年頃)
ディオメデス (572年頃)
ゲオルギウス (598年頃)
コンスタンティヌス・ラルデュス (602年頃)

参考文献

The Prosopography of the Later Roman Empire (PLRE)

関連項目

道 (行政区画)
プラエフェクトゥス・プラエトリオ
テトラルキア
イリュリクム道
イタリア道
ガリア道

オリエンス道は、東ローマ帝国の隆盛を支えた重要な行政機構であり、その歴史を知ることは、東ローマ帝国理解への近道となるでしょう。

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