遼河文明

遼河文明

遼河文明は、中国東北部の遼河流域で紀元前6200年頃から存在したとされる古代文明です。1908年に鳥居龍蔵によって紅山文化が発見されたことが、その研究の始まりとなりました。

文明の特徴

遼河文明では、大規模な竪穴建物跡が発見されており、特に紅山文化の牛河梁遺跡からは、墳墓や祭壇といった神殿跡が広範囲にわたって見つかっています。これらの発見から、当時の社会にはすでに高度な組織や祭祀が存在し、原始的な「国」のようなものが存在した可能性も指摘されています。

興隆窪文化の遺跡からは、中国最古の龍を象ったヒスイなどの玉製品や、櫛目文様が施された土器、耳飾りなどが出土しています。また、紅山文化の遺跡からは、風水の原型と考えられるものも見つかっています。夏家店上層文化からは、最古の遼寧式銅剣が発見されており、金属器の使用も始まっていたことがわかります。

これらの特徴から、遼河文明は黄河文明や長江文明とは異なる独自の発展を遂げた文明でありながら、後の中国文明に大きな影響を与えたと考えられています。

気候変動と人々の移動

中国科学院などの研究によれば、遼河文明が存在した地域は、かつて豊かな水資源に恵まれた森林地帯でしたが、約4200年前から始まった気候変動によって砂漠化が進みました。このため、紅山文化の人々は南へと移住を余儀なくされたと考えられています。

Y染色体ハプログループ分析

遼河文明遺跡から出土した古人骨のY染色体ハプログループ分析からは、6500年前から3600年前にかけて、シベリアや沿海州で高頻度に見られるハプログループNが60%以上の高い割合で認められました。このハプログループNは、フィン・ウゴル系民族と関連があるとされ、櫛目文土器の最古のものが遼河地域の興隆窪文化の遺跡で発見されています。しかし、後の夏家店上層文化の時代になると、漢民族と密接な関係のあるハプログループO2や、モンゴル人などを含むハプログループC2へと交代したようです。

後続文化への影響

2021年には、遼河地域からトランスユーラシア語族（日本語族、朝鮮語族、ツングース語族、モンゴル語族、チュルク語族）の祖語の話者がキビ農業を通じて拡散したという説が発表されました。この説によれば、新石器時代の朝鮮半島南部の人類は紅山文化の影響を強く受けており、青銅器時代以降の日本列島の人類は夏家店上層文化の影響を強く受けているとされています。

この説は、従来のトランスユーラシア語族が4000年前に東部ステップ地帯の遊牧民によって拡散されたという説を否定するものであり、今後の研究の進展が注目されます。

遼河文明を構成する主な文化

興隆窪文化（紀元前6200年頃-紀元前5400年頃）
新楽文化（紀元前5200年頃-紀元前4800年頃）
趙宝溝文化（紀元前5400年頃-紀元前4500年頃）
紅山文化（紀元前4700年頃-紀元前2900年頃）
夏家店下層文化（紀元前2000年頃-紀元前1500年頃）
夏家店上層文化（紀元前1100年頃-紀元前500年頃）

遼河文明は、中国古代文明の多様性を示す重要な事例として、近年ますます注目を集めています。

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