那嵯涼介

那嵯 涼介

那嵯 涼介（なさ りょうすけ、1965年 - ）は、埼玉県を拠点に活動する格闘技史研究家、ライターである。本名は公開されていない。彼の研究の核となっているのは、現代プロレスの根源ともいえるキャッチ・アズ・キャッチ・キャン（CACC）スタイルのレスリング史、そしてかつて「シューター」や「フッカー」と呼ばれ最強と謳われたレスラーたちの系譜の徹底的な探求だ。

那嵯氏の研究姿勢は、多角的な情報源からの検証と、歴史の真実に妥協なく迫る厳密さによって際立っており、格闘技史研究の世界において独自の地位を築いている。古今東西における最強レスラー100人のリスト作成をライフワークとしている点からも、その探求心の深さと広がりがうかがえる。

研究への道

設計事務所で働く傍ら、個人的な関心から格闘技の歴史について調べ始めた那嵯氏は、この過程で格闘技研究の大家である流智美氏と出会い、師事することとなる。流氏の下での学びは、那嵯氏の研究者としての方向性を決定づける重要な契機となった。

商業誌デビューとその後の活動

2008年、師である流智美氏の紹介を通じて、格闘技・プロレス専門誌『Gスピリッツ』（辰巳出版）で商業誌デビューを飾る。掲載された「Uの源流を探る カール・ゴッチとキャッチ・アズ・キャッチ・キャン」は、UWFのルーツであるCACCと「プロレスの神様」カール・ゴッチの関係性を丹念に紐解いた作品として大きな反響を呼んだ。同年には、DVD『プロレスの神様 カール・ゴッチ』の制作にも携わり、貴重な資料提供のほか、監修を務めた流智美氏との対談も収録された。

2009年には、『Gスピリッツ』11号にて発表した「ダニー・ホッジ回想録」が、往年のプロレスファンだけでなく、他の研究者からも絶賛され、「研究家が頼りにする研究家」という評価を確立するに至った。彼の情報収集能力と考証の正確さが、同業者からも一目置かれる存在となったことを証明している。

ローラン・ボック発見という快挙

那嵯氏の精力的な活動の中でも特筆されるのが、2011年における伝説的強豪ローラン・ボック氏の発見である。長らく消息不明とされていたボック氏を捜し出し、『Gスピリッツ』21号で2万字にも及ぶロングインタビューを実現させたことは、プロレスマニアを大いに驚嘆させた。このインタビューは、ボック氏の異名である「墓掘人」の冷徹なイメージとは異なる、誠実で人間味あふれる一面を引き出し、彼のレスラーとしての再評価に繋がる貴重な機会となった。さらに同年10月25日には、アール・エフ・ラジオ日本の番組「真夜中のハーリー&レイス」へボック氏の電話生出演を仲介し、大きな話題を呼んだ。

継続的な貢献

2016年からは、武道・格闘技専門誌『月刊 秘伝』（BABジャパン）にて、「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン慨史」の不定期連載を開始。CACCの歴史を包括的に捉え直すこの連載は現在も継続されており、多くの読者から支持を集めている。

また、イベントへの参加も積極的に行っており、2016年11月5日には、（仮称）田辺又右衛門とタロー・ミヤケに関する単行本制作のクラウドファンディングに関連し、パトロン限定でノンフィクション作家の柳澤健氏、プロレスラーの鈴木秀樹氏を招いたトークショーを企画・開催した。

2017年には、藤原喜明氏の著書『ゴッチ式トレーニング』（新紀元社）の制作に当初、共著者として参加する予定であったが、藤原氏と対談を行った前田日明氏との間で意見の対立が生じ、トラブルに発展。那嵯氏はその責任を負う形で共著者を外されたと伝えられており、彼の研究が時に議論を呼ぶデリケートな領域に踏み込むものであることを示唆している。

初著書と評価

2019年10月28日、那嵯氏はこれまで『Gスピリッツ』誌に寄稿した記事をまとめ、加筆・修正を加えた初の単著『最強の系譜 プロレス史 百花繚乱』（新紀元社）を出版した。この書籍は、那嵯氏が長年積み重ねてきた格闘技史研究の成果が凝縮された一冊として、ファンから高い評価を受けている。

ノンフィクション作家の柳澤健氏が、自身の著書『1984年のUWF』の中で那嵯氏を「世界一のカール・ゴッチ研究家」と評していることからも、その専門性と格闘技史研究界における影響力は広く認知されている。

那嵯涼介は、過去の記録や関係者への取材に基づく徹底的な考証を通じて、埋もれていた格闘技・プロレス史の重要な側面を掘り起こし、新たな光を当て続ける稀有な研究者である。その精力的な活動は、多くの格闘技ファンや研究者にとって不可欠な情報源となり、プロレス史研究の第一人者としての地位を確固たるものとしている。

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