郗超

郗超（ち ちょう）

郗超（336年 - 377年）は、東晋時代の文官であり、その生涯は波乱に満ちたものでした。字は景興または敬輿、小字は嘉賓。

生涯

名門郗氏の出身であり、祖父は名臣として知られる郗鑒、父は郗愔という家柄でした。幼い頃からその才能は際立っており、後に東晋の宰相となる謝安からも高く評価されていました。成長すると、大司馬である桓温の軍に仕え、側近として重用されます。

桓温は、その卓越した能力から他人を সহজেには評価しない人物でしたが、郗超と語り合ううちに、その才能に深く感銘を受け、丁重に扱うようになったと言われています。二人の間には深い友情が芽生えましたが、それは同時に、東晋の政局を揺るがす陰謀の始まりでもありました。

太和4年（369年）、桓温は北伐を計画し、郗超の父である郗愔らに出兵を命じます。桓温はかねてから、郗愔が軍事的に重要な拠点である京口を掌握していることを警戒していました。郗愔は桓温に協力的な書状を送りますが、郗超はそれを破棄し、桓温に兵権を委ねる内容の書状を偽造します。これにより、桓温は郗愔を左遷させ、徐州・兗州の兵権を手中に収め、軍事力を強化しました。

桓温は北伐を開始しますが、郗超は行軍の困難さを指摘します。しかし、桓温は聞き入れず、前燕との戦いで大敗を喫します。軍事的な失敗が続く中、桓温は帝位簒奪の野心を抱くようになり、郗超はその計画に深く関与していくことになります。

咸安元年（371年）、桓温は寿春を攻略した後、郗超に戦果を誇ります。郗超は桓温に進言し、皇帝司馬奕を廃位し、代わりに簡文帝を擁立させました。これにより、桓温は朝廷の実権を掌握し、郗超もまた、その腹心として権勢を振るうようになります。

朝廷内では、誰もが郗超を恐れるようになり、謝安でさえも彼に会うのに苦労したという逸話が残っています。その後、司徒左長史に任命されますが、母の喪に服すために辞任。喪明け後、散騎常侍に任じられますが、就任することはありませんでした。臨海郡太守にも任命されましたが、これも受けませんでした。

太元2年（377年）、郗超は42歳という若さで亡くなります。彼は桓温の側近として権勢を振るいましたが、父である郗愔は晋王朝に忠実であり、その行動を隠していました。臨終の際、彼は文生に遺言を残し、ある本箱を託します。その中には、桓温との密謀に関する書簡が含まれており、父である郗愔を慮って処分するように指示しました。

郗超の死後、郗愔が悲嘆に暮れたため、文生は郗超の本箱を郗愔に呈上します。中身を知った郗愔は激怒し、「小子の死が遅すぎた」と嘆いたと伝えられています。このエピソードは、郗超の生涯が、家族との葛藤、忠誠心、そして野心という複雑な要素に彩られていたことを物語っています。

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