桓温

桓温（かん おん）

桓温（312年 - 373年）は、東晋時代の重要な政治家であり、軍人でした。字は元子（げんし）。宣城内史を務めた桓彝（かんい）を父に持ち、後漢の儒学者である桓栄（かんえい）の末裔とされています。その生涯は、軍事的成功と政治的野心に満ち溢れていました。

生涯

若き日

桓温は若くしてその才能を発揮し、豪快で品格のある人物として知られていました。容姿も優れており、顔には七星のような痣があったと伝えられています。当時、劉惔（りゅうたん）という人物から、「眼は紫の石のようで、髭は乱れ毛が右に流れている。孫権や司馬懿に匹敵する」と評されました。

咸和3年（328年）、父の桓彝が蘇峻の乱で韓晃（かんこう）によって殺害されるという悲劇に見舞われます。桓温は当時15歳でしたが、仇討ちを決意し、江播（こうは）という人物を討ち果たしました。この仇討ちは、当時の人々から大いに称賛されたと言われています。

急速な出世

桓温は東晋に仕え、明帝の娘である南康公主を妻に迎えることで、急速に昇進しました。駙馬都尉（ふばとつい）、琅邪太守（ろうやたいしゅ）、徐州刺史（じょしゅうしし）などの要職を歴任し、西府軍（せいふぐん）を統括する庾翼（ゆよく）からも高く評価されました。庾翼は、桓温を国家の大役に任じるよう皇帝に進言したとされています。

成漢攻略

永和2年（346年）、桓温は成漢（せいかん）攻略を決意します。周囲の反対を押し切り、自ら軍を率いて蜀（しょく）へと進軍しました。永和3年（347年）には、成漢の首都である成都（せいと）を攻略し、成漢の皇帝である李勢（りせい）を降伏させました。この功績により、桓温の名声は大いに高まりました。

殷浩との対立

蜀を平定したことで桓温の声望が高まるにつれ、朝廷は彼を警戒するようになります。揚州刺史（ようしゅうしし）の殷浩（いんこう）は、桓温を牽制するために朝政に関与するようになります。桓温は北伐（ほくばつ）を主張しますが、殷浩らが反対したため、実現しませんでした。その後、殷浩が北伐に失敗したことを理由に、桓温は彼を罷免させ、朝廷内での権力を掌握しました。

北伐

桓温は生涯で3度の北伐を試みました。

第一次北伐（354年）: 前秦（ぜんしん）の首都である長安（ちょうあん）を目指しましたが、兵糧不足により撤退しました。
第二次北伐（356年）: 洛陽（らくよう）を奪還しましたが、遷都は実現しませんでした。
第三次北伐（369年）: 前燕（ぜんえん）を攻撃しましたが、大敗を喫しました。

これらの北伐は、桓温の軍事的才能を示すものでしたが、同時に彼の権力拡大の野望を露呈させるものでもありました。

簡文帝擁立

桓温は自らの権力をさらに強化するため、簡文帝（かんぶんてい）を擁立するクーデターを画策します。咸安2年（372年）、司馬奕（しばえき）を廃位し、司馬昱（しばいく）を皇帝に即位させました。これにより、桓温は朝廷内での絶対的な権力を確立しました。

政争

簡文帝の死後、桓温は簒奪（さんだつ）を企てますが、謝安（しゃあん）や王坦之（おうたんし）らの抵抗に遭い、失敗に終わります。寧康元年（373年）、病に倒れた桓温は、九錫（きゅうしゃく）を授与されることなく死去しました。

人物

桓温は、軍事的才能に優れる一方で、権力欲が強く、簒奪を企てるなど、野心的な一面も持っていました。倹約家である一方、自分の容姿を司馬懿や劉琨（りゅうこん）に似ていると自負するなど、ナルシスト的な一面もありました。

評価

桓温は、東晋時代を代表する政治家・軍人として、その功績と野心的な性格から、後世において様々な評価を受けています。

逸話

桓温には多くの逸話が残されています。竹馬の友、断腸の故事など、現在でも使われる言葉の由来となった逸話も存在します。

参考文献

『資治通鑑』（しじつがん）
* 『晋書』（しんじょ）

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