謝安

謝安（しゃ あん）

謝安（320年 - 385年）は、東晋時代の貴族政治家です。字は安石（あんせき）。陳郡陽夏（ちんぐんようか）の出身で、名門・謝氏の一員でした。桓温（かんおん）の簒奪を阻止したり、淝水（ひすい）の戦いで勝利を収めたりするなど、東晋の危機を何度も救ったことで知られています。

生涯

若き日

謝安は、名族である陳郡謝氏に生まれ、将来を嘱望されていました。しかし、若い頃は官職に就かず、書家の王羲之（おうぎし）と親交を深め、清談（せいだん）にふけり、悠々自適な生活を送っていました。

360年、40歳にして初めて官職に就き、桓温の司馬（しば）となります。その後、桓温のもとを離れて中央に戻り、侍中（じちゅう）・吏部尚書（りぶしょうしょ）を歴任しました。

桓温の簒奪阻止

当時の桓温は強大な勢力を誇り、東晋を覆うほどでした。桓温は簒奪の野望を抱き、簡文帝（かんぶんてい）の崩御後、孝武帝（こうぶてい）に禅譲を迫ろうとしました。しかし、謝安は王坦之（おうたんし）と共にこれに強く反対し、禅譲を引き延ばす工作を行いました。その結果、桓温は老齢のため死去し、東晋は滅亡の危機を免れました。

淝水の戦い

事前の経緯

373年に大司馬（だいしば）桓温が死去すると、謝安は尚書僕射（しょうしょぼくや）となり、東晋の政権を掌握しました。兵権は謝安と桓温の弟である桓沖（かんちゅう）に委ねられました。謝安は、前秦（ぜんしん）の勢力拡大に対抗するため、兄の謝奕（しゃえき）の子である謝玄（しゃげん）を将軍に任命し、謝玄の下に劉牢之（りゅうろうし）らを参謀として登用し、精強な北府軍（ほくふぐん）を創設しました。

383年、華北を統一した前秦の苻堅（ふけん）は、中国統一を目指して百万と号する大軍を南下させました。

開戦

謝安は朝廷より征討大都督（せいとうだいととく）に任ぜられ、弟の謝石（しゃせき）や甥の謝玄らに軍を預け、前秦軍を大破しました（淝水の戦い）。戦いの最中、謝安は落ち着いている様子を周囲に見せるため、客と囲碁を打っていました。対局中に前線からの報告が届き、客が戦況を尋ねると、「小僧たちが賊を破った」とだけ答え、喜びを表に出しませんでした。客が帰った後、謝安は平静を装っていた態度をかなぐり捨てて、喜びのあまり小躍りしました。その際に下駄の歯をぶつけて折ってしまいましたが、それに気づかなかったと言われています。

この功績により、陳郡謝氏は琅邪王氏（ろうやおうし）と同格の最高の家柄とされ、謝安は太保（たいほ）となりました。さらに謝安はこの勢いに乗じて北伐を計画しましたが、皇族の権力者である司馬道子（しばどうし）に阻止されました。司馬道子の反対は、謝安の功績が大きくなりすぎることを警戒したためでした。謝安は中央から遠ざけられ、広陵歩丘（こうりょうほきゅう）に鎮することになりました。

385年8月22日、謝安は死去しました。太傅（たいふ）の官と廬陵郡公（ろりょうこう）の爵位が追贈されました。子の謝琰（しゃえん）と孫の謝混（しゃこん）も引き続き東晋に仕えました。

謝安を題材とした作品

『蜘蛛人謝安』 王順鎮著 実学社（台湾）

参考文献

下中邦彦編『アジア歴史事典 4』平凡社、1960年。
井波律子『裏切り者の中国史』講談社、1997年。
駒田信二; 常石茂 『新十八史略4』河出書房新社、1997年。

関連項目

世説新語
夫子廟
車胤
集帖

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