配電統制令

配電統制令とは

配電統制令（昭和16年8月30日勅令第832号）は、国家総動員法に基づき、1941年（昭和16年）8月に施行された日本の勅令です。この勅令は、戦時下の電力供給体制を強化するため、配電事業を国が統制することを目的としていました。具体的には、配電事業を担う特殊会社の設立・運営、電気供給事業者の統合・再編などを規定しました。

配電統制令の制定と配電事業の再編

配電統制令に基づき、1942年（昭和17年）4月、全国各地の配電事業者が統合され、9つの地域配電会社が設立されました。これらの会社は、各地域で配電事業を独占的に行うこととなりました。また、全国規模で発電・送電事業を管理する特殊会社である日本発送電と、地域単位で配電事業を担う9配電会社により、電力供給事業を分担する体制が完成しました。

この体制は、太平洋戦争後の国家総動員法廃止に伴い1946年（昭和21年）9月に廃止されました。しかし、必要な一部規定は電気事業法に引き継がれ、配電会社も存続しました。その後、1951年（昭和26年）5月には、電気事業再編成令によって日本発送電と9配電会社は解散し、地域ごとに発送配電一貫経営を行う9つの電力会社が発足しました。

配電統制令の内容

配電統制令は、国家総動員法の規定に基づき、以下の8項目を定めていました。

1. 配電会社の設立に関する規定
2. 電気供給事業設備の出資に関する規定
3. 電気供給事業者の譲渡・合併・解散に関する規定
4. 債務継承・担保処理に関する規定
5. 課税標準計算の特例および租税の減免に関する規定
6. 配電会社の組織・業務と監督に関する規定
7. 電気料金に関する規定
8. 逓信大臣による報告徴取・検査に関する規定

これらの規定は、49条の本文と付則から構成され、細則は「配電統制令施行規則」として定められました。

配電会社の定義

配電統制令における「配電会社」とは、「一定区域内における配電事業の統制のため配電事業を営むことを目的とする株式会社」と定義されています。配電会社の設立は、逓信大臣が電気事業者に対し設立命令書を交付することにより行われました。設立命令は、事業者に電気事業設備の現物出資を命じるものと、「配電株式会社と為る」ことを命じるものの2通りがありました。後者は、事業者が法人格を維持したまま配電会社に移行するのではなく、商法上の新設合併と同様の手続きを意味しました。また、残余事業者の統合について、逓信大臣は配電会社への合併・事業譲渡・設備出資を発令する権限を持っていました。

配電会社の組織と監督

配電会社は、社長、副社長、理事、監事の4種類の役員によって経営されました。理事は商法上の取締役、監事は監査役に相当します。役員は株主総会で選任され、逓信大臣の認可を得る必要がありました。この点が、総裁・副総裁が政府によって任命される日本発送電とは異なりました。また、国策会社であるため、株主から外国人・外国法人は排除されました。

逓信大臣には、電気料金の決定、業務運営上の諸計画の監督、不当な会社決議の取り消し、役員の解任など、多岐にわたる権限が付与されました。

配電統制令の改正

配電統制令は、1943年（昭和18年）11月1日と1945年（昭和20年）8月26日の2回改正されました。1943年の改正では、軍需省設置に伴い「逓信大臣」が「軍需大臣」に、1945年の改正では、商工省再設置に伴い「軍需大臣」が「商工大臣」にそれぞれ変更されました。

配電統制令制定の経緯

電力国家管理構想の浮上

電気事業の国家経営への移行は、明治末期から議論されていました。大正時代には、逓信大臣の野田卯太郎によって提唱されるなど、戦前の電力業界では度々取り上げられる構想でした。昭和に入ると、軍部や革新官僚によって、この国営論が注目されるようになりました。

1935年（昭和10年）に設置された内閣審議会では、電力国営論者である頼母木桂吉議員が主張を展開し、調査官の奥村喜和男や鈴木貞一が具体的な政策の検討を行いました。その結果、民間電力会社の設備を特殊会社に現物出資させ、その運転を国が受託するという「民有国営」方式が取りまとめられました。しかし、1936年の二・二六事件によって、この政策の具体化は一旦停止しました。

頼母木逓信大臣による国営化推進

1936年（昭和11年）に成立した広田弘毅内閣では、頼母木桂吉が逓信大臣に就任し、省内では国営推進派の大和田悌二が電気局長に起用されました。以後、逓信省では電力国家管理の具体化が進められ、閣議で「電力国家管理要綱」が承認されました。この要綱では、各電力会社から特殊会社へ主要発電・送電設備を出資させ、政府が発送電事業を経営することが定められました。

1937年（昭和12年）に法案が帝国議会に上程されましたが、広田内閣の総辞職により、林銑十郎内閣が全案件を撤回したため、法案は成立しませんでした。

小規模事業者の整理

頼母木案では、配電事業は現状維持としながらも、供給区域の整理統合や料金を通じて監督を徹底することとしていました。当時、小規模事業者の数が非常に多く、経営状態が悪いという問題がありました。逓信省は1937年5月の逓信局長会議で小規模事業者の整理統合の方針を決定し、大規模事業者への統合を推進しました。その結果、1937年から1940年の4年間で211件の事業統合が成立しました。

日本発送電の設立

1937年（昭和12年）に成立した第1次近衛文麿内閣では、逓信大臣の永井柳太郎により再び電力国家管理が進められました。永井案は、「民有民営」形態を採り、特殊会社には全国の電気事業者から主要火力発電設備と主要送電設備を出資させることとしました。1938年（昭和13年）に「電力管理法」などが公布され、1939年（昭和14年）4月1日に日本発送電株式会社が発足しました。

国家管理の強化と配電統制の具体化

日本発送電の設立後、異常渇水や石炭不足により電力供給が不安定になりました。また、日本発送電の経営も不振であったため、電力国家管理体制をより強化する動きが強まりました。1940年（昭和15年）に発足した第2次近衛内閣では、逓信大臣の村田省蔵により、配電事業者の解体と地区ごとの配電特殊会社の設立が決定されました。これらの決定は、1941年（昭和16年）1月22日の衆議院本会議における「戦時体制強化に関する決議」を受け、国家総動員法の適用によって実施されることとなりました。

配電統制令の公布と施行

1941年（昭和16年）4月、逓信省は「配電事業統合要綱」を決定し、配電事業統制によって「高度国防国家」建設に応ずるための合理的・計画的な電力配給などを目指すことを掲げました。その後、公営電気事業者の反対運動や、財政措置などの調整を経て、同年8月30日に配電統制令が公布・施行されました。

配電統制の実施過程

配電統制は、以下の2段階で進められました。

1. 全国を9つの地域に分け、各地域内の主要事業者を統合して配電会社を設立（第一次統合）
2. 各配電会社が地域内の残る小事業者を吸収し、各地域内で配電事業の独占を完成（第二次統合）

配電会社の設立（第一次統合）

1941年（昭和16年）9月6日、政府は各地域の事業者に対し、配電会社の設立命令を発しました。これにより、北海道、東北、関東、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の9地域に、それぞれ配電会社が設立されました。これらの会社は1942年（昭和17年）4月1日に一斉に設立され、第一次統合が完了しました。

残余事業の統合（第二次統合）

1942年（昭和17年）4月以降、逓信省は残る小規模事業者を統合し、9配電会社の地域独占体制を完成させるため、第二次統合に着手しました。各配電会社は、1942年から1943年にかけて、地域内の小規模事業者を順次統合しました。

配電区域の整理

配電会社設立後の1942年（昭和17年）7月15日には、逓信大臣より事業譲渡命令が発せられ、一部の配電区域が配電会社間で交換・整理されました。

配電会社の解体

配電統制令の廃止

太平洋戦争終戦後の1946年（昭和21年）4月1日、「国家総動員法及戦時緊急措置法廃止法律」が施行され、国家総動員法は廃止されました。これに伴い、配電統制令も同年9月30日に失効しました。ただし、必要な規定は電気事業法に引き継がれ、配電会社は存続しました。

電気事業再編成令の公布

連合国軍占領下の経済民主化政策の一環として、1947年（昭和22年）に過度経済力集中排除法が公布され、日本発送電と9配電会社は指定を受けました。その後、1949年（昭和24年）に設立された「電気事業再編成審議会」の答申を受け、1950年（昭和25年）11月24日に「電気事業再編成令」が公布されました。この政令は、電力国家管理を廃止し、日本発送電・9配電会社の再編によって発送配電一貫経営の独立した電力会社を新設することを目的としていました。

9電力体制の成立

電気事業再編成令に基づき、1951年（昭和26年）5月1日に、北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力の9つの電力会社が発足し、現在の電力体制へと繋がっていきます。

配電統制に関する年表

1938年（昭和13年）4月5日：電力管理法公布
1939年（昭和14年）4月1日：日本発送電設立
1941年（昭和16年）4月：逓信省により「配電事業統合要綱」決定
1941年（昭和16年）8月30日：配電統制令公布・施行
1941年（昭和16年）9月6日：逓信大臣より配電株式会社設立命令発令
1942年（昭和17年）4月1日：9配電会社設立（第1次統合の完了）
1942年（昭和17年）10月1日：本州の配電会社5社間で配電区域の交換・整理実施
1942年（昭和17年）12月：北海道配電での第2次統合完了
1943年（昭和18年）2月1日：東北配電・九州配電での第2次統合完了
1943年（昭和18年）3月1日：北陸配電での第2次統合完了
1943年（昭和18年）4月1日：中部配電・中国配電・四国配電での第2次統合完了
1943年（昭和18年）6月10日：関東配電での第2次統合完了
1943年（昭和18年）7月1日：関西配電での第2次統合完了
1946年（昭和21年）9月30日：改正電気事業法施行に伴い配電統制令廃止
1950年（昭和25年）11月24日：電気事業再編成令公布
1951年（昭和26年）5月1日：日本発送電と9配電会社解散、9電力会社設立

脚注

参考文献を参照

参考文献

関西地方電気事業百年史編纂委員会（編）『関西地方電気事業百年史』関西地方電気事業百年史編纂委員会、1987年。
関西配電清算事務所（編）『関西配電社史』関西配電清算事務所、1953年。
九州電力 編『九州地方電気事業史』九州電力、2007年。
四国配電清算事務所（編）『四国配電十年史』四国配電清算事務所、1953年。
東京電力 編『関東の電気事業と東京電力』東京電力、2002年。
東北電力 編『東北地方電気事業史』東北電力、1960年。
東邦電力史編纂委員会（編）『東邦電力史』東邦電力史刊行会、1962年。
中部配電社史編集委員会（編）『中部配電社史』中部配電社史編集委員会、1954年。
中国地方電気事業史編集委員会（編）『中国地方電気事業史』中国電力、1974年。
北海道電力五〇年史編纂委員会（編）『北のあかりを灯し続けて 北海道電力五十年の歩み』北海道電力、2001年。
北陸地方電気事業百年史編纂委員会（編）『北陸地方電気事業百年史』北陸電力、1998年。
逓信省電気局 編『電気事業要覧』 第30回、電気協会、1939年。
通商産業省公益事業局 編『電気事業要覧』 第35回、日本電気協会、1953年。
公営電気復元運動史編集委員会（編）『公営電気復元運動史』公営電気事業復元県都市協議会、1969年。
電気新報社（編）『電気年報』 昭和13年版、電気新報社、1938年。
電力政策研究会（編）『電気事業法制史』電力新報社、1965年。
古池信三『配電統制令概説』電気新聞社、1941年。

外部リンク

「配電統制令」『官報』第4395号、1941年8月30日付（国立国会図書館デジタルコレクション）
* 「配電統制令施行規則」『官報』第4395号、1941年8月30日付（国立国会図書館デジタルコレクション）

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