野川隆

野川隆（のがわ たかし）は、1901年4月23日に千葉県千葉市で生まれた詩人です。彼の父親は東京大学医学部で森鷗外と同期であり、医師の野川二郎でした。隆は出生後間もなく、父の開業に伴い岐阜県大垣市に移り、そこで育ちました。大垣中学を卒業後、東洋大学に進学しましたが中退し、横浜税関に勤務しながら詩作を始めました。

詩人としての初期には、モダニズム詩人として活躍し、北園克衛らとともに1924年に詩誌『ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム』を創刊し、ダダイズム的な活動を展開しました。この雑誌には、稲垣足穂や村山知義も寄稿しており、稲垣は野川を文学に物理学を持ち込んだ先駆者として回想しています。

1927年には、壺井繁治、小野十三郎、萩原恭次郎らが創刊したアナキスト系の雑誌『文芸解放』の同人となり、1928年頃からは雑誌『戦旗』の編集にも携わるなど、プロレタリア文学運動に積極的に参加しました。『戦旗』時代には、作品発表よりも読者組織の強化と雑誌発行の支援に尽力しました。プロレタリア文学運動が弾圧により解体された後は、壺井繁治や小熊秀雄らが設立した風刺文学団体「サンチョ・クラブ」に所属し、詩や詩論を発表しました。

1938年12月、野川は満州国浜江省呼蘭県の農事合作社に勤務し、農民たちの集団活動を支援しました。しかし、満州国の治安維持法違反の容疑で逮捕され、獄中で体調が悪化。仮出獄を許されたものの、回復することなく奉天医大病院で亡くなりました。この時期、詩集『九篇詩集』をハルピンで出版（1940年）し、小説「狗宝」が1941年の第14回芥川賞候補作となりました。

野川隆は、モダニズムからプロレタリア文学へと、その作風を変化させながらも、常に社会と深く関わり続けた詩人でした。彼の作品は、激動の時代における人間の生き様や、社会に対する深い洞察を映し出しています。西田勝は、彼の業績を「中国農民に殉じた詩人野川隆」と題した評論で高く評価しています。

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