野村東太

野村 東太（のむら とうた、1930年1月24日 - 2007年8月21日）は、日本の建築学界において、教育者、研究者、そして大学運営者として多大な功績を残した人物である。特に横浜国立大学では第11代学長を務め、退官後には名誉教授の称号を授与された。また、新しいものづくり教育を担うものつくり大学の設立に携わり、その初代学長として晩年を過ごしたことでも知られる。

経歴
野村は1930年に東京で生を受けたが、少年期から青年期にかけては福岡県で過ごした。地元の名門校である福岡県中学修猷館を経て旧制福岡高等学校に進み、その後、建築学を志して上京。1955年に東京大学工学部建築学科を卒業した。さらに専門性を深めるため大学院に進学し、1961年には同大学院数物系研究科建築学専攻の博士課程を修了、同年には東京大学より工学博士号を取得している。

教育・研究者としての歩み
大学院修了後、横浜国立大学工学部建築学科に研究者・教育者として勤務を開始した。助教授を経て、1970年には同学科の教授に昇任。長年にわたり建築学の教育と研究に情熱を注ぎ、多くの後進を育てた。教育・研究活動に加え、大学の運営にも深く関与し、1992年には工学部長という重責を担った。その優れた運営手腕と人格が高く評価され、1994年には横浜国立大学の第11代学長に選出された。学長として大学全体の改革と発展を推進し、1997年に退官するまでその職を務めた。退官後、横浜国立大学より名誉教授の称号を授与された。

ものつくり大学初代学長として
横浜国立大学を退いた後も、野村の教育への情熱は衰えなかった。2001年に開学した、技能と理論を融合させた新しいものづくり教育を目指す「ものつくり大学」において、その初代学長として招聘されたのである。新しい大学の礎を築くため、教育理念の確立や運営体制の整備に尽力し、晩年まで教壇に立ち続けた。

専門分野と業績
野村 東太の専門分野は、建築計画学および建築設計学である。特に、公共性の高い建築物の計画や設計に関する研究で顕著な業績を残した。医療福祉施設、博物館、学校給食施設といった、利用者の多様性や特殊な機能が求められる建築物の計画論や設計手法について深く掘り下げた研究は、学術的にも実務においても多大な影響を与えた。中でも「博物館に関する一連の研究」は高く評価され、1994年に日本建築学会論文賞を受賞している。これは、博物館建築の計画や空間構成における彼の先駆的な貢献が認められたものである。

社会活動と貢献
大学での教育・研究活動に加え、野村は学術界や社会の様々な分野で要職を歴任し、幅広い貢献を果たした。日本工学アカデミー理事、国立大学協会理事として、日本の工学教育や高等教育全体の発展に向けた提言を行った。また、自身の専門分野に関連して、全日本博物館学会の会長を務め、博物館学の振興に尽力。さらにInternational Council of Museums（国際博物館会議）日本委員会の役員として、日本の博物館界と国際社会との連携強化にも貢献した。地元・横浜市の文化振興にも関心を寄せ、横浜市芸術文化振興財団の理事を務めるなど、地域社会の発展にも寄与した。これらの多岐にわたる活動は、研究者・教育者としての枠を超え、社会全体の文化や教育レベルの向上に貢献しようとする彼の強い意志を示すものである。1997年には、これらの長年の功績が認められ、横浜文化賞を受賞している。

著作
教育・研究の成果は著作としても発表されている。代表的な著書として、ものつくり大学の初代学長としての経験を踏まえ、技術者育成に対する考え方やものづくり教育の重要性について述べた『ものづくりと人づくり － あした輝くテクノロジストへ』（日刊工業新聞社、2006年）がある。

晩年と評価
ものつくり大学学長として教育に情熱を注いでいた最中の2007年8月21日、胆管癌のため東京都中央区の病院で死去した。77歳であった。その死後、長年にわたる教育、研究、大学運営、社会貢献の功績が高く評価され、位階は正四位に叙せられるとともに、瑞宝重光章が授与された。これは、野村 東太が日本の建築学界および教育界、さらには社会全体に対して果たした貢献が、国家レベルで高く評価されたことの証である。彼は、専門分野における深い知見と、社会に対する幅広い視野を持ち合わせた稀有な建築学者であり、その業績は今なお多くの人々に影響を与え続けている。

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