野間恒

野間恒：若き講談社社長と剣道の達人

野間恒（のま ひさし）は、明治42年（1909年）に生まれ、昭和13年（1938年）に29歳という若さで亡くなった実業家であり、剣道家でもありました。彼は大日本雄弁会講談社（現在の講談社）の創業者である野間清治の長男として生まれ、父の死後、第二代社長に就任しました。

生い立ちと帝王学

恒は東京市神田区台所町で生を受けました。千駄木尋常小学校を卒業後、通常の進学ルートには進まず、父・清治の意向により、一種の帝王学とも言える独自の教育を受けました。これは、将来的に講談社を背負って立つ後継者としての英才教育だったと言えるでしょう。

昭和10年（1935年）には大日本雄弁会講談社に入社し、跡取りとして期待を集めました。しかし、その将来は長くはありませんでした。

短くも激動の社長在任期間

昭和13年（1938年）は恒にとって激動の年となります。2月には町尻量基の長女・登喜子と結婚。登喜子の実家は旧堂上家の公家であり、父は陸軍中将、母は元皇族という名門でした。しかし、この頃から恒は大腸癌を発症し、病状は急速に進行していきました。

10月16日、父・清治が急逝。同日、恒は講談社の第二代社長に就任しますが、既に病床から起き上がれないほど衰弱していました。彼は講談社が株式会社へと移行するのを見届け、父の死からわずか22日後の11月7日に息を引き取りました。墓所は護国寺にあり、父の墓の隣に眠っています。

恒の死後、母である左衛が第三代社長に就任。その後、妻の登喜子が野間家に留まり、高木省一と再婚。省一は野間家の婿養子となり、第四代社長に就任。二人の間には、後に第六代社長となる野間佐和子が生まれています。

剣道家としての野間恒

恒は剣道家としても知られています。祖父は北辰一刀流玄武館四天王の一人である森要蔵の門弟・野間好雄であり、父・清治は剣道を人格形成と修養の最善の道と信じ、野間道場を設立しました。そのため、恒は幼少の頃から剣の道を叩き込まれました。

幼い頃はひ弱な性格でしたが、努力を重ね、毎朝夕の稽古を欠かさず、休日には道場で長時間稽古に励みました。高野佐三郎の修道学院にも通い、その腕前は目覚ましく向上しました。

1929年（昭和4年）には大日本武徳会から剣道精錬証を授与され、1933年（昭和8年）の陸軍武道大会で優勝。翌1934年（昭和9年）には皇太子殿下御誕生奉祝天覧武道大会の府県選士の部で優勝し、「昭和の大剣士」と称えられました。

病との闘いと最期

恒は病院嫌いだったため、大腸癌の兆候があったにも関わらず、適切な治療を受けようとしませんでした。「逆療法」と称してビールやステーキを大量に摂取するなど、体に負担をかける生活を続けました。胃潰瘍の疑いで入院・手術を受けた後も、食生活を改めることはありませんでした。

1938年（昭和13年）7月、病状が悪化する中で、大日本武徳会から剣道教士号が授与されました。しかし、その数ヶ月後、29歳という若さでこの世を去りました。

野間恒は、短い生涯の中で、講談社の社長として、また剣道家として、その才能を発揮しました。彼の死は早すぎましたが、その功績は講談社の歴史に深く刻まれています。

著作

『剣道読本』大日本雄弁会講談社、1939年3月。
『剣道読本』（新訂版）大日本雄弁会講談社、1976年9月。
* 『風詩余録』大日本雄弁会講談社、1939年11月。

もう一度検索