金井沢碑

金井沢碑：古代豪族の信仰を伝える石碑

金井沢碑は、群馬県高崎市山名町に位置する古代の石碑であり、国の特別史跡に指定されています。同じく高崎市内にある山ノ上碑、多胡碑とともに「上野三碑」と称され、その歴史的・文化的な価値から、ユネスコ「世界の記憶」にも登録されています。

概要

碑文によると、金井沢碑は神亀3年（726年）2月29日に建立されました。高さ110センチメートル、幅70センチメートル、厚さ65センチメートルの輝石安山岩に、楷書体で9行112文字が刻まれています。その書体は、山ノ上碑と同様に古い隷書体の特徴を残しています。

江戸時代の書物『山吹日記』（1786年）には、金井沢碑が近隣から掘り出されたという記述があります。また、付近の農家で洗濯板として使用されていた、あるいは山崩れで発見され八幡宮として祀られた、という伝承も残っています。明治11年（1878年）には、当時の群馬県令であった楫取素彦によって保護が図られました。

碑文の内容は、上野国群馬郡下賛（しもさの）郷高田里の三家（みやけ、屯倉）の子孫が、七世の父母と現在の父母のために、天地に誓願して建立したというものです。祖先の菩提と父母の安穏を仏に祈願する内容から、郷里制の施行や奈良時代における民間への仏教信仰の浸透を知ることができます。

金井沢碑に刻まれている「三家」は、これまで山ノ上碑に見られる「佐野三家」であると考えられてきました。しかし、近年の発掘調査により、史料には知られていない別のミヤケの存在が有力視されるようになり、「三家」が「佐野三家」とは異なるミヤケである可能性も指摘されています。

1921年（大正10年）3月3日に国の史跡に、1954年（昭和29年）には国の特別史跡に指定されました。

碑文の内容

碑文には、当時の社会情勢や人々の信仰に関する貴重な情報が記されています。以下に、碑文の読み下しと現代語訳、そして解釈について説明します。

読み下し

上野国群馬郡下賛郷高田里の三家子□が、七世父母と現在父母の為に、現在侍る家刀自の他田君目頬刀自、又児の加那刀自、孫の物部君午足、次に〔馬爪〕刀自、次に若〔馬爪〕刀自の合せて六口、又知識を結びし所の人、三家毛人、次に知万呂、鍛師の礒部君身麻呂の合せて三口、是の如く知識を結び而して天地に誓願し仕え奉る石文。神亀三年丙寅二月二十九日。

現代語訳

上野国群馬郡下賛郷高田里に住む三家子□が（発願して）、祖先および父母の為に、ただいま家刀自（主婦）の立場にある他田君目頬刀自、その子の加那刀自、孫の物部君午足、次の〔馬爪〕刀自、その子の若〔馬爪〕刀自の合わせて六人、また既に仏の教えで結ばれた人たちである三家毛人、次の知万呂、鍛師の礒部君身麻呂の合わせて三人が、このように仏の教えによって（我が家と一族の繁栄を願って）お祈り申し上げる石文である。神亀3年丙寅2月29日。

解釈

碑文に登場する地名や人名、そして記述内容から、当時の社会構造や信仰の様子を読み解くことができます。「郷里制」と呼ばれる制度や、仏教が民間に浸透していく様子、そして豪族たちの系譜や人間関係を知る上で、金井沢碑は非常に重要な史料です。

まとめ

金井沢碑は、古代上野国の豪族であった三家氏の信仰や社会活動を今に伝える貴重な文化遺産です。碑文に刻まれた文字を通して、当時の人々の生活や精神世界に触れることができるでしょう。上野三碑の一つとして、その歴史的価値は高く評価されています。

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