金子本源氏物語

金子本源氏物語：河内本系統の貴重な写本

金子本源氏物語は、源氏物語の写本の一つとして知られています。国文学者である金子元臣（1868-1943）が所蔵していたことからこの名で呼ばれ、彼の校本『定本源氏物語新解』（明治書院、1926-1930年）で河内本系統の写本として紹介されたことで広く知られるようになりました。

金子元臣は、1925年に出版された『定本源氏物語新解 上』で、この写本を「十二三数年前に図らずも入手した」と記していますが、それ以前の伝来については不明です。

系統と特徴

この写本は、各巻の巻末に花山院長親（耕雲）による跋歌と奥書があることから、高松宮家本と並んで河内本系統の中でも耕雲本系統の代表的な写本とされています。かつては高松宮家本の転写本と考えられていましたが、鈴虫には耕雲の奥書がなく、和気親就による奥書に永正17年（1520年）に御禁裏本を直接書写したと記されていること、高松宮家本にはない耕雲による注記があることなどから、現在は禁裏本を直接写した独立した写本であると考えられています。

奥書によれば、和気親就が家宝とするために能筆家たちに書写を依頼し、永正13年（1517年）から永正17年（1520年）にかけて書写が行われたとされています。書写は巻順に沿って行われたわけではなく、複数回に分けて行われたようです。

欠損巻

金子本は、いくつかの巻が欠損しており、金子元臣は青表紙本で補われたと判断していました。具体的には、金子元臣は明石、絵合、真木柱、藤裏葉、若菜下、横笛、匂宮、紅梅、東屋、浮舟、蜻蛉、夢浮橋の12帖が欠損していると主張しましたが、池田亀鑑はさらに椎本を加えて13帖と指摘しています。これらの巻がなぜ欠損しているのか、また、金子元臣と池田亀鑑の指摘に違いがある理由などは、現在も不明です。

校本への影響

金子本は、金子元臣の『定本源氏物語新解』に校異として採録されていますが、『校異源氏物語』、『源氏物語大成校異編』、『河内本源氏物語校異集成』といった現在広く用いられている校本には採用されていません。

その他の金子元臣所蔵写本

金子元臣は金子本以外にも多くの源氏物語写本を所蔵しており、伝正徹筆本、伝周桂筆本、伝紹巴筆本、証本、伝二条為明筆夕顔巻などが確認できます。また、『定本源氏物語新解 中巻』の口絵には、金子元臣所蔵とされる古活字本源氏物語も紹介されており、これらも「金子本」と呼ばれることがあるようです。

金子本源氏物語は、その伝来や欠損巻の謎など、未解明な部分も多く残されていますが、河内本系統を研究する上で貴重な資料であり、今後もその価値は変わりません。今後の研究によって、より詳細な情報が明らかになることが期待されます。

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