二条為明
二条為明は、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての公卿であり、歌人としても名を馳せました。特に、歌道の名門である二条家の流れを汲み、その才能を遺憾なく発揮しました。
永仁3年（1295年）に、二条為藤の子として誕生しました。為藤は歌道に精通し、二条家の嫡流である二条為世の次男にあたります。母は吉田経長の娘です。
為明が歴史に名を刻む最初の出来事は、正和4年（1315年）の歌会「花十首寄書」への参加でした。この時詠んだ2首が勅撰和歌集に選ばれ、現存する最古の作品として知られています。
元徳2年（1330年）には、鎌倉幕府による後醍醐天皇討幕計画に関与した疑いで捕縛されるという事件に見舞われます。拷問を受ける中で、為明は歌を詠むことで自身の潔白を証明しようとしました。その歌に感銘を受けた幕府は、為明を釈放しました。
元弘元年/元徳3年（1331年）、元弘の変で後醍醐天皇と共に捕らえられ、尊良親王の土佐への配流に随行。鎌倉幕府が滅亡すると、尊良親王と共に京へ帰還しました。
建武3年（1336年）に建武の乱が起こると、後醍醐天皇は吉野へ逃れますが、為明を含む二条家の歌人は京都に残りました。その後、観応の擾乱により南朝が勢力を盛り返すと、正平6年/観応2年（1351年）頃には南朝に再び接近しますが、正平10年/文和4年（1355年）頃までに帰京しています。
正平11年/延文元年（1356年）には、北朝の後光厳天皇が撰集を命じた勅撰和歌集『新千載和歌集』の編纂に携わりました。天平17年/康安2年（1362年）には後光厳天皇に古今伝授を行い、翌年には足利義詮の推薦によって、後光厳天皇より勅撰和歌集『新拾遺和歌集』の撰集を命じられました。天平19年/貞治3年（1364年）4月に『新拾遺和歌集』四季部6巻を奏覧しますが、同年10月に70歳で生涯を終えました。
岐阜聖徳学園大学教授の安田徳子氏は、為明の生涯を「動乱期を生き抜いた歌人の忍耐強く図太い有り様を如実に示した」と評しています。
為明の手による写本類は、現代にも伝えられており、特に「手鑑『藻塩草』続古今和歌集巻第十断簡（朝倉切）」は国宝に、また「古今和歌集」1帖と「狹衣」4帖は重要文化財に指定されています。
為明は、歌人としての才能だけでなく、官僚としてもその能力を発揮しました。以下に主な官歴を記します。
永仁4年（1296年）：2歳で従五位下。
徳治3年（1308年）：14歳で侍従。
延慶4年（1311年）：17歳で従四位下、左近権少将。
文保2年（1318年）：24歳で従四位上。
文保3年（1319年）：25歳で左少将。
元応3年（1321年）：27歳で正四位下。
元亨2年（1323年）：29歳で左少将解任。
正中3年（1326年）：32歳で左中将。
嘉暦2年（1327年）：33歳で左中将辞任。
元徳2年（1330年）：36歳で右兵衛督に就任するも5日後に辞任。
正平2年/貞和3年（1347年）：53歳で北朝より従三位。
正平6年/観応2年（1351年）：57歳で南朝にて参議となるも年内に帰京・解任。
正平7年/観応3年（1352年）：58歳で南朝にて参議に再任、その後の正平10年/文和4年（1355年）頃までに帰京。
正平11年/延文元年（1356年）：62歳で北朝にて参議。
正平12年/延文2年（1357年）：63歳で権中納言兼侍従。
天平14年/延文3年（1358年）：64歳で讃岐権守を兼任。
天平15年/延文5年（1359年）：65歳で正三位。
天平16年/延文6年（1360年）：66歳で権中納言を辞退。
天平18年/貞治2年（1363年）：69歳で権中納言に復任。
天平19年/貞治3年（1364年）：70歳で民部卿。
父：二条為藤（1275-1324）
母：吉田経長娘
妻：不詳
女子：複数
為明は多くの和歌を詠み、その一部は勅撰和歌集に収録されています。以下に代表的な歌をいくつか紹介します。
「足引の 遠山ざくら さきぬらし 霞みてかかる 峰の白雲」新千載和歌集（80）
「家づとに 折つる花も いたづらに かへさわするる 山ざくらかな」新拾遺和歌集（138）
「さりともと 猶たのみしは とし月を へだてぬほどの つらさなりけり」続千載和歌集（1542）
「あだにのみ 散るてふ花の かり衣 きても山路に 日数へにけり」続後拾遺和歌集（104）
「ひたすらに 恨みても又 いかならむ つらきかぎりの なからましかば」新千載和歌集（1639）
「よしやわが ふりぬれば又 げにぞいとふ つねに恋しき 君が来まさぬ」続草庵集（537）
「思ひきや わが敷島の 道ならで うき世のことを とはるべしとは」太平記（巻2）
「いとせめて うき人やりの 道ながら 同じ宿りと 聞くぞうれしき」新葉和歌集（514詞書）
「のぼりえぬ 此一さかは たらちねの いさめし道や ふみたがへけん」新千載和歌集（1927）
「ちりの身に つもれる庭の 訓まで いともかしこく きおえあげてき」新拾遺和歌集（1777）
二条為明は、歌人としての才能を発揮しつつ、激動の時代を生き抜いた人物です。その生涯は、歌道への情熱と、乱世を生き抜くための強靭な精神力を示しています。彼の残した歌は、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。
生涯
永仁3年（1295年）に、二条為藤の子として誕生しました。為藤は歌道に精通し、二条家の嫡流である二条為世の次男にあたります。母は吉田経長の娘です。
為明が歴史に名を刻む最初の出来事は、正和4年（1315年）の歌会「花十首寄書」への参加でした。この時詠んだ2首が勅撰和歌集に選ばれ、現存する最古の作品として知られています。
元徳2年（1330年）には、鎌倉幕府による後醍醐天皇討幕計画に関与した疑いで捕縛されるという事件に見舞われます。拷問を受ける中で、為明は歌を詠むことで自身の潔白を証明しようとしました。その歌に感銘を受けた幕府は、為明を釈放しました。
元弘元年/元徳3年（1331年）、元弘の変で後醍醐天皇と共に捕らえられ、尊良親王の土佐への配流に随行。鎌倉幕府が滅亡すると、尊良親王と共に京へ帰還しました。
建武3年（1336年）に建武の乱が起こると、後醍醐天皇は吉野へ逃れますが、為明を含む二条家の歌人は京都に残りました。その後、観応の擾乱により南朝が勢力を盛り返すと、正平6年/観応2年（1351年）頃には南朝に再び接近しますが、正平10年/文和4年（1355年）頃までに帰京しています。
正平11年/延文元年（1356年）には、北朝の後光厳天皇が撰集を命じた勅撰和歌集『新千載和歌集』の編纂に携わりました。天平17年/康安2年（1362年）には後光厳天皇に古今伝授を行い、翌年には足利義詮の推薦によって、後光厳天皇より勅撰和歌集『新拾遺和歌集』の撰集を命じられました。天平19年/貞治3年（1364年）4月に『新拾遺和歌集』四季部6巻を奏覧しますが、同年10月に70歳で生涯を終えました。
岐阜聖徳学園大学教授の安田徳子氏は、為明の生涯を「動乱期を生き抜いた歌人の忍耐強く図太い有り様を如実に示した」と評しています。
為明の手による写本類は、現代にも伝えられており、特に「手鑑『藻塩草』続古今和歌集巻第十断簡（朝倉切）」は国宝に、また「古今和歌集」1帖と「狹衣」4帖は重要文化財に指定されています。
官歴
為明は、歌人としての才能だけでなく、官僚としてもその能力を発揮しました。以下に主な官歴を記します。
永仁4年（1296年）：2歳で従五位下。
徳治3年（1308年）：14歳で侍従。
延慶4年（1311年）：17歳で従四位下、左近権少将。
文保2年（1318年）：24歳で従四位上。
文保3年（1319年）：25歳で左少将。
元応3年（1321年）：27歳で正四位下。
元亨2年（1323年）：29歳で左少将解任。
正中3年（1326年）：32歳で左中将。
嘉暦2年（1327年）：33歳で左中将辞任。
元徳2年（1330年）：36歳で右兵衛督に就任するも5日後に辞任。
正平2年/貞和3年（1347年）：53歳で北朝より従三位。
正平6年/観応2年（1351年）：57歳で南朝にて参議となるも年内に帰京・解任。
正平7年/観応3年（1352年）：58歳で南朝にて参議に再任、その後の正平10年/文和4年（1355年）頃までに帰京。
正平11年/延文元年（1356年）：62歳で北朝にて参議。
正平12年/延文2年（1357年）：63歳で権中納言兼侍従。
天平14年/延文3年（1358年）：64歳で讃岐権守を兼任。
天平15年/延文5年（1359年）：65歳で正三位。
天平16年/延文6年（1360年）：66歳で権中納言を辞退。
天平18年/貞治2年（1363年）：69歳で権中納言に復任。
天平19年/貞治3年（1364年）：70歳で民部卿。
系譜
父：二条為藤（1275-1324）
母：吉田経長娘
妻：不詳
女子：複数
詠歌
為明は多くの和歌を詠み、その一部は勅撰和歌集に収録されています。以下に代表的な歌をいくつか紹介します。
「足引の 遠山ざくら さきぬらし 霞みてかかる 峰の白雲」新千載和歌集（80）
「家づとに 折つる花も いたづらに かへさわするる 山ざくらかな」新拾遺和歌集（138）
「さりともと 猶たのみしは とし月を へだてぬほどの つらさなりけり」続千載和歌集（1542）
「あだにのみ 散るてふ花の かり衣 きても山路に 日数へにけり」続後拾遺和歌集（104）
「ひたすらに 恨みても又 いかならむ つらきかぎりの なからましかば」新千載和歌集（1639）
「よしやわが ふりぬれば又 げにぞいとふ つねに恋しき 君が来まさぬ」続草庵集（537）
「思ひきや わが敷島の 道ならで うき世のことを とはるべしとは」太平記（巻2）
「いとせめて うき人やりの 道ながら 同じ宿りと 聞くぞうれしき」新葉和歌集（514詞書）
「のぼりえぬ 此一さかは たらちねの いさめし道や ふみたがへけん」新千載和歌集（1927）
「ちりの身に つもれる庭の 訓まで いともかしこく きおえあげてき」新拾遺和歌集（1777）
まとめ
二条為明は、歌人としての才能を発揮しつつ、激動の時代を生き抜いた人物です。その生涯は、歌道への情熱と、乱世を生き抜くための強靭な精神力を示しています。彼の残した歌は、今もなお多くの人々に感動を与え続けています。
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