陸水学

陸水学 (Limnology)

陸水学は、湖、沼、池、河川、地下水、湿地、河口、温泉、雪氷など、内陸に存在するあらゆる水域を対象とする学問です。これらの水域における生態系の構造と機能を解明することを目的とした総合科学であり、物理学、化学、生物学、地学など、様々な分野の知識を統合して研究が進められます。海洋を対象とする海洋学とは対照的に、陸水学は内陸水域に焦点を当てている点が特徴です。

概要

陸水学の研究対象は、当初は湖沼や河川など身近な水塊が中心でしたが、測定技術の発展に伴い、地下水や温泉、さらには他惑星の水の存在も研究対象に含まれるようになりました。陸水という言葉は、海洋に対する語として用いられ、内陸に存在する淡水や塩水、すなわち内陸水全般を指します。止水（湖沼など）と流水（河川など）の両方を対象とすることも特徴です。

歴史

陸水学 (Limnology) の語源は、ギリシャ語の "lake" (湖) を意味する「λίμνη (limne)」と、"knowledge" (学術・学科) を意味する「λόγος (logos)」に由来します。この言葉は、レマン湖 (Lake Geneva) の調査を行ったフランソワ＝アルフォンス・フォーレル (François-Alphonse Forel) (1841-1912) によって初めて用いられました。フォーレルは陸水学を「湖の海洋学」と定義し、内陸水研究全般を包含する学問として発展させました。

当初、陸水学は湖沼学を意味していましたが、1921年にアウグスト・ティーネマン (August Thienemann) とアイナル・ナウマン (Einar Naumann) によって、より広い意味を持つ学問として再定義されました。彼らは1922年に国際理論応用陸水学会 (SIL-International Society of Limnology) を共同で設立し、陸水学の発展に大きく貢献しました。

日本においては、1931年に日本陸水学会が創立され、川村多実二の提案により、"陸水学" という言葉が新たに選定されました。これは、"inland waters" (内陸水) に相当する概念を簡潔に表現したものです。

陸水学は淡水科学と同一視されることがありますが、内陸の塩湖も研究対象に含むため、これは正確ではありません。陸水学の本来の目標は、陸水の基本原理を解明する基礎陸水学にあり、その発展の中から物質循環や生態系など、後の環境科学の基礎となる重要な概念が生み出されました。また、人間との関わりが深い応用陸水学も、その重要性を増しています。

日本における陸水学

日本における陸水学の研究は、1899年に田中阿歌麿が山中湖の測深を行ったことに始まるとされています。その後、多くの研究者によって日本の湖沼や河川の調査・研究が進められ、陸水学の発展に貢献してきました。

陸水学と関連分野

陸水学は、河川学、湖沼学、生態学、海洋学、環境科学、水圏生態学、水文学、水理学、気象学、地理学、惑星科学など、様々な分野と密接に関連しています。これらの分野と連携することで、より総合的な視点から陸水環境を理解し、保全に役立てることが期待されています。

参考文献

日本陸水学会. "陸水学（Limnology)とは".
Wetzel, R.G.：Limnology Lake and River Ecosystems (2001), 3rd ed. Academic Press
Horn J.A.、Goldman R.C.『陸水学』京都大学出版会、1999年。
上野, 益三『陸水学史』培風館、1977年。

外部リンク

SIL-International Society of Limnology（英語） - 国際理論応用陸水学会
日本陸水学会 – The Japanese Society of LIMNOLOGY
* 日本大百科全書(ニッポニカ)『陸水学』 - コトバンク

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