塩野直道

塩野直道は、1898年12月15日に島根県で生まれ、1969年5月10日に生涯を閉じました。彼は、日本の算術教育に大きな足跡を残した人物として知られています。東京帝国大学を卒業後、松本高等学校 (旧制)で教鞭を執り、その後、文部省の図書監修官として教科書編集に携わりました。

特に、塩野が編集した『尋常小学算術』は、国際数学者会議で絶賛されるほど画期的な教科書でした。この教科書では、乳井貢が提唱した4つ珠そろばんを用いた珠算教育が全国で展開されました。4つ珠そろばんは、従来のそろばんよりも構造が単純で、児童がより直感的に数を理解できるとされ、当時の算術教育に大きな変革をもたらしました。

しかし、1958年に数学者の遠山啓らが提唱した水道方式が筆算中心の計算指導体系であることに対し、塩野は暗算を重視する立場から激しく反対しました。この対立は、当時の教育界における計算指導のあり方を巡る重要な論争点となりました。塩野は、計算能力を養う上で暗算が重要であると主張し、その教育思想は多くの教育関係者に影響を与えました。

塩野の教育思想は、「児童の数理思想を開発し、日常生活を数理的に正しく指導すること」を算術教育の目的とするものでした。彼は、単に計算ができるだけでなく、数理的な思考力を養うことの重要性を説きました。その功績を称え、現在では、一般財団法人理数教育研究所が主催する「塩野直道記念『算数・数学の自由研究』作品コンクール」が開催されており、次世代の算数・数学教育の発展に貢献しています。

また、塩野は教育者としてだけでなく、教科書編集者としても重要な役割を果たしました。文部省時代には、国定の小学校算術教科書の編集に携わり、1952年には教科書出版社新興出版社啓林館の取締役に就任し、文部省検定教科書の「算数」を編集しました。これらの活動を通じて、彼は教科書の内容と質を向上させることに大きく貢献しました。

塩野直道の功績は、算術教育の発展に寄与しただけでなく、日本の教育全体にも影響を与えました。彼の教育思想は、現代の教育においても重要な示唆を与え続けています。


なお、東京大学名誉教授で行政法学者の塩野宏は、彼の息子です。

来歴

1945年、金沢高等師範学校教授および同校長に就任。
その後、公職追放となる。
* 1952年、新興出版社啓林館の取締役に就任し、文部省検定教科書の「算数」を編集。

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